認知症の母を自宅で介護できる理由について
はじめまして。認知症の親と同居と聞いて、みなさんはどんな印象を持たれるでしょう?
・夜中に起きて徘徊しそう
・物を散らかしたり、冷蔵庫のなかの物を勝手に食べる
・トイレが心配、漏らして汚すんじゃないか
・ディサービスに行ったりヘルパーさんに頼むとお金がかかりそう。
・同じことを何度も話すから聞いているとストレスが溜まる。
とにかく大変そうだから、自分にはできない。
それが、多くのかたの行きつく結論ではないでしょうか?
しかし、母が自宅で転倒し、骨折してひとり人暮らしが無理になったとき、わたしは迷わずに自宅に引き取って介護することを選びました。
理由はケアマネージャーだからです。
ケアマネージャーという職業柄、たくさんの認知症の親御さんや、そのご家族に接してきました。
その結果、認知症の親は自宅で介護するのがいちばんだと感じたからです。
みなさんがまず無理だと感じていることが、じつは案外、解決可能だったりします。
それでは、これからそのノウハウをご説明しましょう。
① 徘徊には見守り登録を
認知症だけれども足腰は元気だという高齢者の問題になってくるのが、道迷いといわれる「徘徊」です。
これはほんとうに外にでて迷子になってしまうことのほかに、家のなかをソワソワと目的もなく歩きまわることも含まれます。
転倒したり事故にあわずに無事に戻ってくればよいのですが、認知症があると道がわからなくなることがあります。近所のかたにつれて帰ってもらったり、警察に保護されたり……。
間違いなく人さまに迷惑をかけるので、毎回、家族が頭を下げに行くことになるでしょう。
しかし、一度でも警察に保護されると「地域包括支援センター」という地域の老人のよろづ相談所のようなところに連絡が入ります。
そこで写真や普段の服装などを届けでて警察に「徘徊老人」として登録し、民生委員さんや地域のみまもりを受けることができます。またオレンジのリングが目印の「認知症キャラバンメイト」という一定の研修を受けた地域の見守り舞台も協力してくれるでしょう。
迷子になっても発見されやすくなり、スムーズに自宅に戻りやすくなります。
その他に、いつもかばんを持ち歩く習慣があったり、いつもかぶる帽子などがあれば、スマホを忍ばせたりGPSを利用することもできます。靴底に入れておくタイプのGPSもあります。
②物を散らかす、冷蔵庫のなかの物を勝手に食べる
認知症の親にこういうことがあるなら、居住スペースを分けることをお勧めします。
家の間取りによる要素も大きいのですが、本人の自由にできる部屋と家族の居住スペースを分離してみましょう。
介護ベットに食事用のテーブル、そして、トイレなどの共有部分は拒否がなければポータブルトイレ(簡易トイレ)を置きます。そうして居室内でいちおうの生活を完結できるようにします。
基本、お年寄りの部屋は段差のない、一階の玄関と水場の近くが望ましいです。
あと、満腹感がなく冷蔵庫をあけて食べ物をさがすなら、家族の留守中や夜間は鍵をかけてあかないようにしておくなどの対処方法があります。(ホームセンターなどで売っています)
筆者の母は水道の水を出しっぱなしにするので出かけるときや夜間は外の止水栓を閉めていました。トイレはタンクに水が溜まっているので、一回分なら流れるし、電気温水器などにも影響がないことは確認済みです。
③トイレが心配なら、本人が自分でできる環境を整える。漏らしても掃除をしやすいように工夫をする。
俗にいう「お下の世話」は一人ひとりの状態によりまちまちです。
ときどき漏れてしまうことがあるから、念のためにパットをあてたり紙パンツを履いているという自立に近いかたなら簡単です。
手の届く場所に紙パンツや汚物入れのゴミ箱、ウエットティッシュなどを置いておけば自分で処理することができます。
いつもオムツやリハビリパンツの中で出ていることが多い、トイレに行くとズボンの上げ下げができない身体レベルのかたなら、家族の手助けが必要になります。
日中はトイレに行けても夜間は薬の影響や寝起きで意識がはっきりしないなど転倒のリスクが高くなります。できるだけベットの横に簡易トイレ(ポータブルトイレ)を置くことが望ましいでしょう。
掃除がしやすいタイプや消臭剤なども充実しているので、まず臭いが気になることはありません。
そして、寝たきりで、尿意便意がなくいつもオムツ内にしている場合は、介助して交換することが必要になります。尿は比較的、交換しやすいですが、便が出たときは技術や慣れが必要になります。訪問ヘルパーさんにきてもらったり指導してもらうと良いでしょう。
④介護に関わるお金については役所で相談し、できる限りの減免を受けましょう。
認知症の親を介護したい気持ちはあるけれども、お金の面が心配だという悩みは大きいのではないでしょうか?
しかし、年金などの収入に応じて、受けられる減免があるのでさほど心配はいらないといえます。
たとえば筆者の母の場合、国民年金50万、厚生年金20万(年額)の非課税世帯なので
介護サービス費15000円
施設利用の部屋代が1日に820円、食事代390円
他にはディサービスの昼食代1回、800円程度
オムツ代1ヶ月3000円(あとは会社でサンプルをもらってきたりします)
医療費は上限が設けられているので、いくら使っても月に8000円。入院すると15000円。
年金の月5万円以内にじゅうぶん収まる計算になります。
⑤介護ストレスは溜めこまずにディサービスやショートスティを利用しましょう。
認知症の親と同居しているとストレスはつきものです。相手は決して自分の思い通りにはなりません。ときに認知症の親にとっての常識は、わたしたちの非常識であったりします。
できるだけ介護サービスを利用し、日中はディサービスに行かせて運動させて、夜はよく眠れるようにしましょう。
定期的にお泊まりのショートスティを利用し、旅行したり友達と出かけて息抜きするのもよいでしょう。
あと、在宅介護者はお家で過ごす時間が多くなるので、ゆっくり時間をかけて入浴したり、自分の好きな料理を作るなど、お家でできる楽しみを持つこともお勧めします。
認知症の親を自宅で介護することは、最初はエネルギーを使うことかもしれません。
しかし「認知症」という病気を家族のみんなが理解し、いったん軌道に乗ると、さほど苦もなく暮らせることもあります。
まとめ
・認知症の親と同居することは、思ったより難しいことではない。
・徘徊には地域で見守りを。生活空間の分離で散らかしを予防。
・水の出しっぱなし、冷蔵庫の開けっぱなしなどには、お出かけ前に止水栓をとめたり、冷蔵庫の見えないところに鍵をかけるなどの工夫を。
・排泄介助はできるだけ、自分でできる工夫をし、洗濯、掃除しやすい寝具を使う。ヘルパーさんの手を借りることも必要です。
・認知症の親を介護するなら自宅が断然費用的にお得です。ケアマネージャーや役所に相談し、介護費用や医療費の受けられるだけの減免措置を申請しましょう。
・わたちたしの常識は、世代の違う認知症の親にとっての非常識でもあります。おたがいにストレスを溜めこまないためにも、ディサービスやショートスティなどの介護サービスを利用して息抜きの時間を持ちましょう。
次回はみなさんも気になられている『介護と仕事の両立について』です。筆者はフルタイムでケアマネージャーの仕事をしながら、認知症の母の在宅介護をしています。介護離職が話題になっているいま、はたして仕事を続けながら在宅介護ができるのかをご一緒に考えてみましょう。