23年間、エプソンが選び続ける「お米」のはなし
みなさんは「金芽米」というお米をご存じですか?
健康を意識したメニューでも有名な「タニタの社員食堂」で採用されるなど、ここ10年程で広く知られるようになったおコメ商品です。エプソンでは2000年9月から長野県内の社員食堂で順次採用を開始し、現在では県内全ての社員食堂(13カ所)で提供されています。
金芽米にはさまざまな特長があります。「とぎ洗いが不要」「栄養価や食味に優れている」という点は生活者目線からもイメージしやすいと思いますが、実は環境面でも大きなメリットを持ち合わせているのです。
そして、この「環境」というキーワードこそが、エプソンが導入を決めた最大の理由でした。
金芽米を選択することが、環境に対してどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
今回の記事では、当社の社員食堂で使用する金芽米を加工・納入いただいている株式会社中島屋降籏米穀 代表取締役社長 降籏一路さんのお話を軸に、「一膳のご飯」と環境、そしてエプソンとのつながりをひも解いていきます。
環境を想うお米を、環境を想う企業が使い続ける
エプソンが金芽米(当時は、従来の精米を施したBG無洗米)を導入したきっかけは「米のとぎ汁」への対策でした。
米のとぎ汁には下水処理では完全に除去できないリンや窒素が多く含まれており、海や川に流れ込むことで、富栄養化の原因になります。とぎ汁による水質汚染を軽減するべく、エプソンは2000年頃から無洗米の検討を始めます。
無洗米には当時からさまざまな製法がありました。エプソンからのとぎ汁を減らすだけであれば、より低コストな無洗米を採用するという選択肢もあったといいます。しかし、「製造工程においてもとぎ汁を排出しない」「取り除いた肌ヌカを肥料などに再利用できる」という特異な環境価値も含めて評価を行い、エプソンはBG精米製法による無洗米の導入を決定しました。
降籏社長は「2000年頃というと、環境のことを考えて無洗米を選ばれている企業は非常に少なかったです。エプソンさんの環境に対する高い意識といいますか、その突出した価値観とマッチするかたちで導入いただきました」と当時を振り返ります。
そもそもBG精米製法の誕生のきっかけは、高度経済成長期の1976年。開発者である雜賀慶二さん(東洋ライス代表取締役)が紀淡海峡で「暗黄緑色」に濁る水質汚染を目の当たりにし、心を痛めたことに端を発しています。
「絶対に諏訪湖を汚してはならない」という創業者の想いを脈々と受け継ぎ、さまざまな環境施策に取り組んできたエプソンにとって、ごく自然な選択だったのかもしれません。
長野県でたった一人の「匠」による精米
エプソンで1年間に使用する金芽米はおよそ100トン。お米はすべて長野県産で、松本市内にある中島屋降籏米穀の工場で加工されています。
金芽米の精米には高度なオペレーションを要します。そのため、この技術を開発・提供する東洋ライス株式会社(以下、東洋ライス)の工場以外で精米を許されているのは全国でも数えるほど。その一つである中島屋にも、金芽米を精米する資格を持つのは一人だけです。
このオペレーションの難しさについて、降籏社長は次のように話します。
「当社で加工した金芽米はほぼ毎日、東洋ライスに送って精米度合いをチェックしています。そのフィードバックの内容を正確に理解し、調整をかけられるのは宮澤だけです。オペレーションは手で触った時の感覚を頼りに行いますので、この感覚を身につけている人にしか分かりません。伝言ができないんです」
当の宮澤さんも「精米に関わって30年くらいになりますが、金芽米の精米はとても難しいです。ある程度は白度で(定量的に)調整することもできますが、同じ品種でもその年の作柄、季節や気候によってお米のコンディションは全く異なります。その個性に合わせて精米度合いを見極められるのは、やはりこの手の感覚なんです」と語ります。
金芽米の品質を支える「匠」の手。
精緻な技術で品質を追い求めるという姿勢においても、私たちエプソンと通底するものを感じます。
循環型農業を通じた環境教育への貢献
先述した通り、金芽米の環境価値の一つに「取り除いた肌ヌカを肥料などに再利用できる」というものがありました。
肌ヌカは加熱処理し、粒状に加工することで「米の精」という有機質肥料へと製品化されます。一般のヌカと比べてリン、チッソがバランス良く、またミネラルが豊富に含まれており、土中の微生物を大幅に増やす起爆剤になる特質があることから、土壌の改善や作柄の向上に役立てられるとともに、循環型の農業サイクルにも貢献しています。
また、「米の精」を使用した肥沃な土壌には多種多様な生物が集まることから、生き物たちの観察や田植え・収穫などを体験する「いきものみっけファームin松本」というプログラムも実施されています。対象となるのは地域の子どもとその親です。
この取り組みは、産学官民が参画する「いきものみっけファームin松本 推進協議会」が主体となっており、その会長も務めている降籏社長は、活動に込める思いを次のように語ります。
「このプログラムが始まったのは、まだSDGsという言葉もなかった2011年のことです。田植えや収穫を通じて生き物と触れ合うだけでなく、加工や販売、試食までを体験することで、循環型農業の仕組みについて環境と経済の両面から理解を深めていただいています。金芽米のみならず、さまざまな食材や食品を持続可能性という観点で選び取れる。子どもたちにはそんな考え方も養ってもらいたいですね」
「米の精」は金芽米の精米工程で発生する副産物であるため、エプソンの社員食堂で金芽米を食べることが、巡り巡って「米の精」の安定供給につながっているといいます。「金芽米」という選択は、循環型農業や環境教育にも貢献しているのです。
さいごに
降籏社長にエプソン社員へのメッセージをお伺いしたところ、日ごろの感謝とともに次のようなコメントをいただきました。
「環境に配慮された技術や製品も、作るだけでは自己満足の域を出ません。活用・消費していただくことで初めて環境に対する価値を生み出します。この金芽米もエプソンさんの社員食堂をはじめ、定期的に食べていただいている皆さんのおかげで、水環境の改善やCO2の削減、循環型農業に寄与できているのです。このような背景についても是非、ご理解をいただけたら幸いです」
普段、食堂で何気なく口に運んでいるお米も、その背景に「徹底した環境への配慮」があると知れば、少し捉え方が変わるような気がします。
環境を想って生み出された「一膳のご飯」を通じて、今一度、私たちの生活と環境とのつながりについて想いを馳せてみてはいかがでしょうか。