心の奥底をえぐりだそう
名曲はいつ生まれるのか。
自分が幸せでないと思ったときだ。
人は、幸せであるときはそれに気づかず、なんとなく生きている。
しかし失恋や別れに直面したとき、死が近づいていると知った時、ストレスで潰れそうになったとき、自分というものを考えざるを得なくなる。この世の中について思いを巡らすことになる。
自分の心の真底まで深く掘り下げ、血のにじむほどに中身をえぐりだし、それを見つめなおし、過去を振り返る中で、いろんな気持ちになったことを思い出し、反省したり、後悔したり、泣いたり、将来の自分の姿に思いをめぐらせ、期待したり、興奮したり。
そういうふうに深く考えつくしたあげく、頭と心からの出口を求めていたアイデアのかたまりが、一気に吹き出すのが名作なのだと思う。究極まで悩み抜いた作者が、自らを開放する手段として、美しいメロディーをあみだすのだ。
300年間、変わらず愛され続けている名曲には、ものすごく深い意味が埋め込まれている。だから名曲であればあるほど、聞く人に感動を与える演奏をすることは難しくなる。
私にポピュラー音楽を薦め、詩の素晴らしさを教えてくれた友人は、歌のことを「言葉と声色の魔法」と呼んだ。「なるほど」と思った。言葉のある音楽はまだ伝えやすい。しかもシンガーソングライター(自作自演)は、自分自身の気持ちをストレートに音楽として演奏しているから、むしろ伝わりやすい。
歌詞のないオーケストラ音楽、しかも何百年も前に他人が作った曲だ。現代に生きる私たちが、その作品に意味を与え、感動を伝えるのが「演奏」だ。簡単ではないことは想像できるであろう。
音楽は心の奥底から湧いて出てくるものだ。交響曲やソナタなどの絶対音楽も例外ではない。作曲家の伝記や解説書を読んだだけでは、その音楽の意図するものの1%もわかるかどうか怪しい。
大切なのは、次の2点。
こちらも参考にしてほしい。死に直面したベートーヴェンの作品演奏についてのエピソードだ。
楽譜に書かれている全ての音符、そして音符と音符の隙間にまで、入りきらないほどの思いを詰め込んでほしい。そのくらいしなければ、人に聞いてもらう意味がない。楽譜には、音楽として再現するのに必要な情報は、ほぼ何も書かれていないからだ。
こちらも参考にしてほしい。楽譜にはなぜ何も書かれていないのかがわかるはずだ。
ましてや、モノマネは絶対にダメだ。自分がプロのCDを聞いて感動したそのままの気持ちで演奏しても、聞いている人には何も伝わらない。
指揮者チョン・ミュンフンは「音符を根っこから掘り起こせ」と言っている。音符の頭をなでているだけでは、いくら国際コンクールに出れるレベルの演奏技術をもってしても、心に響く音楽にはなり得ない。
演奏技術を持っていることと、表現したいという心は、まったく別ものだ。
私の知人のお子さんが、ドイツでピアノの先生について習い始めて最初に聞かれたことが「君は何を伝えたいの?何を表現したいの?」だったらしい。いきなり問い詰められたらしい。伝えたい何かがなければ、演奏する意味がないのだ。
ページトップ:パブロ・カザルスはスペインのフランコ軍事政権に抑圧されていたカタロニアの出身。開放を求めて音楽を通して活動をしていた。これはケネディ大統領夫妻に招かれたホワイトハウスでの演奏会のライブ録音。音楽のメッセージ性というものがすごく伝わる。本も参考にどうぞ。
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