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弟への手紙 編集後記

 お疲れ様です。エポナです。
やっと12ヶ月分の手紙の紹介が終わりました。
辛抱強くお付き合い頂いた皆様どうもありがとうございました。

 この手紙を書いた男性は北欧のとある田舎町に暮らしていた作家です。今から約100年前に生まれた彼は幼い頃に戦争で父親を亡くし、しばらくして母親も病気で失っています。残された家族は弟のみとなりました。

父親はまだ20代でした。


 戦後の不況の中、さまざまな職を転々としつつ作家としての活動も継続していました。一方で幼い頃より身体の弱かった弟は、度重なる体調不良に悩まされながらも常に兄の一番の理解者であり続けました。兄の書く小説を誰よりも楽しみにしており、作品を読むたびに長々と感想文を送ってよこしたといいます。

 弟は結婚し子供にも恵まれましたが、その頃より彼の心には拭いきれない憂鬱が巣食うようになります。激しい幻覚にも悩みましたが、妻や兄には一切打ち明けなかったようです。もともと寡黙だった彼の静かな異変に周囲の人々は気づきませんでした。

 兄は少しずつ小説家としての地位を確立していき、知名度が上がるにつれ様々な人物から評価されるようになりました。いつしか弟からの手紙は途絶え、兄も兄で家族のいる弟宅を訪ねる足が遠のくようになりました。弟の孤独感はより一層強まり、足元にはひたひたと絶望が渦巻いていました。

 そんなある日のこと、兄は酷く狼狽した弟の妻から悪夢のような知らせを受け取ります。


 

 兄は激しく自分を責めました。都会を離れて標高の高い地域へと引っ越し周囲との交流を断つことに決めます。兄はそこで一ヶ月に一度弟への手紙をしたため、いつか伝えたかったことを綴りました。酒に入り浸る日々が続き後を追うことも頭をよぎりましたが、毎回寸前のところで思いとどまりました。

弟に向き合う時間は苦痛であると同時に
彼を癒すための時間でもありました。


 
 兄は生涯独身を貫き、弟が褒めてくれた創作の才能を信じて執筆活動に専念しました。「兄さんが小説家として認められることが僕の夢でもあるんだ」そう言って力無く微笑む弟の顔を忘れた事はありません。晩年、彼の作品は世界中でベストセラーとなり、その遅咲きの才能は世間に広く知られることとなります。

 まとまった休みが取れると弟が行きたいと話していた場所へ一人旅に出かけました。小説の売り上げは全て義妹と甥に渡しており、残された弟の家族はお金に困ることはありませんでした。

 兄が自宅で息を引き取ったあと、書斎の机の中から弟に向けた12通の手紙が発見されました。何箇所も大きなシミがあり文字のインクはひどく滲んでいたようです。自死した弟の存在は彼の作品に大きな影響を与えているとして世間でも大いに注目を浴びました。

 今回はその12通の手紙を翻訳してnoteで紹介させていただいた次第です。







 以上が壮大な私の妄想になります。

 完全なフィクションです。

 noteを始める前からゴッホと弟テオの手紙のやりとりを真似して書き留めていた内容です。テオの場合は兄を自死(諸説あり)で失っています。

 あまりに希死念慮が強いと最後には誰の言葉も届かない場所へ堕ちて行ってしまいます。一切の光(希望)が届かない海底のような場所です。私はそこが虹の彼方(Somewhere over the rainbow)の楽園から最も遠い場所だと考えています。もちろん中間の薄暗い場所で長時間さまよっている方もたくさんいます。

 自死や孤独死をする方々の背後には倍以上の数のご遺族がいることも忘れてはいけないと思うので。これは個人にも社会にも言えることです。

 自分を責める気持ちほど辛いものはありません。ご遺族の心のケアや伴走型支援にも関心を持ち続けたいと日々考えています。

 noteを始めていなければ、それこそ本当に一生私のデスクトップの中で眠っている手紙たちでした。多くの方に読んでいただけて光栄です。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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