【842回】山本文緒「無人島のふたり」
末期の膵臓がん。余命は4ヶ月。抗がん剤を中止し、死へ向かっていく著者の序盤の言葉は、上手な死への願いだった。
病気になれば、ゆっくりと読みたい本を読みながら、死に向かっていくのだろう。
そのような考えは甘かった。
著者が村上春樹を読む場面もあった。ところが実際には、症状に苦しみ、外出できず、だんだんとできることが減っていく。
毎日本を読めて幸せ、という生活にはならないらしい。自分にとってはちょっとした混乱である。
元気なうちに、やりたいことはやらねばならぬ。
余命宣告を受けたら、例えば「ああ、来年の正月を迎えられないのだな…」というように、自己の存在をあきらめなければいけない現実が待っている。もう、心が潰れそうになる。
しかし見方を変えれば、じっくりと、出会った人やまわりの環境へのお別れと、スマホや銀行口座、相続など死後の手続きをあらかじめ進められるのは、メリットとも言える。
メリットとも言えると書いたものの、がんになった自分を想像してみると、怖くて怖くて仕方ない。
「無人島のふたり」という日記が、ひとつの疑似体験として、僕に勇気を与えてくれるかな…。