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#詩
最後の駅を発ってから眠れ(2)
仮設住宅の隙間を通ってきたという風に背をおされて冬の地理が成る
廃校の屋根を見上げるたびに積もることのない雪をきみはゆびさす
積もることのない雪を見るたびに廃校の屋根をきみはゆびさす
思い出は切れ端となって死者のように近すぎる
引き出しから出てくる一行も書かれていない手帳の最初のページから引き返して私たちはここに至る
私たちは昨日の欠席者となって引き出しの中の一行も書かれていない手帳を開く
昨日の
月日は悲鳴もなく閉じられる扉の一部か
どれだけの雨を運んできたのかしらない風の吹く翌日
となりのビルの屋上の球形の給水タンクと同じ高さで目をとじている
雲の切れ目には別の雲があり
光は来ない、光が来ない理由も来ない
私たちは、耳に残る濁音とともに
くりかえし瓦礫を運ぶトラックの軽油になって消費されたいと願った
翌日、それから翌日の翌日
月曜日の雨がまだ降っていた
地中の水となって咳込んで前屈みなったひとの背に噴水として降り注いだ
私た
列車を見送らなければならない
細すぎる月に照らされてきた半世紀の川が増水をくりかえしている
詩人がいない土地なので贈り主となって雨を降らせ
振り返らない夏の背中をきみと見送った
子どもたちのように増水した川をみている
きみの存在がわたしの存在だった八月の川をみている
そこからのぞむ夏空にもトンボは舞い
舞うことに罪を着せる風がそのときも吹いている
ホームではあらゆる列車を見送らなければならない
愛する罪を問いながら
きみは
七月の傷だらけの背中が遠ざかっていく
風があるとしてもぼくたちを吹いている風ではない
濡れまいとして傘を開いただれかに降りかかる雨があるとしても
ぼくたちに降る雨ではない
やがてきみの姿となる光に照らされて夜の破片を踏んでいる
きみの不在はまだ深い井戸の底にあって
ぼくが振りかえるときにみる暗がりの正体を知ることはない
遠ざかるものを見送るにはまだ早い
ぼくたちはまだ近づいているさなかだ
きみの言葉は口にされる前にすでにぼくたちふ
窓という窓を曇らせて
どうかそれぞれの扉から旅立ち
ぼくの雪を降らせ
ぼくの雪を融かしてほしい
水蒸気となって浮遊するあなたのために
どうか水晶の静寂を揺るがし
窓という窓を曇らせてほしい
それぞれの言葉がすれ違う午前二時に
どうか明滅する信号機よりも彼方から
あなたの季節を届けてほしい
受け取り主のない配達物よりも彼方へと
あなたの翼は放物線を描いて去っていくだろう
真冬の真横から射す陽光のように
なにひとつ温めな
愛の半分は秋にうしなう
行き止まりの朝から戻ってきて
坂の下で静止するボールのなかから夜空を仰ぐものがある
行き止まりの部屋の扉に貼ってある地図に迷いながら
散歩に出たきり帰らない犬をさがすときの夜だけがひろがる
離れればなくなる愛がかなしいという女のためにボールがころがる
舞い上がると夜空に捕獲されてしまう女のためにボールがころがる
歩いているうちに渡ってしまった川を見失っている
仮眠しかない丘から舞い上がる
飲み忘れた薬をもったひととなって商店街を縦断し
永遠に落下するもの、という言葉にくりかえしとらえられる仮眠しかない
冷えきった海水を汲んだ水筒をさかさにして
理由のない海を背にすると理由のない潮が背後から満ちてくる
仮眠しかない丘から舞い上がる土埃のように移動する午後しかない
途中で折れる文章では伝えられないものを追うために砂浜しかない
あいまいな川が流れ込んでいる
なにも言えない夜が過ぎ去っ