眠りにつく記憶

春は葬られる草の名を宛先にまなざしを開く
一対の疲労として
追憶の淵から打ち寄せる波などに身をゆだねる
損なわれながら聞くことにも
知ることにもついに慣れてしまいながら
草の語りがぼくらのまま枯れるのだ

セロファンの空がカッターナイフで
かんたんに引き裂かれる音を
聞く側の耳は知っていた
ときどきしか聞こえないきみの声は
いつも別れようとする女の論理を語っている

屋根、廃屋の眼は覚めている
水よりもゆっくりと揮発するもの
垂直に流れる時間のように
危なく身を消してゆく灰の草々
その草を枯らすのはぼくらなのだ
規則どおりの日づけを滑るようにして引かれる
ぼくらのままの傾く線が
生きてはいけない姿なのだ

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