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降り積もるにあたいする日々
朗らかなカラスたちが楽しげに話しかけてくるとなりのビルの屋上から
夕方になってしまった
もうどこを掘っても地層がないので
きみは跳ねるように歩くしかない
折り重なってたおれたきみたちの死骸が地層だった時代を
さながら今日の生きにくさを嘆くように朗らかに鳴くしかない
いかにも楽しげに迎えた夕方の残り半分をきみは悲しげに見送った
暗がりに電気をつけて
夢を終わらせるものを書きながら
突然馬車にとびの
あなたは数を数えない
数える数字はどれも三を超えない
それが愛の示し方だとあなたは告げた
ひとりで帰る帰り道に歌った歌を
ただ聞いていたそのときの夜が
間違うはずのない明日を迎え
光ってくれる風が通っていく道を
一足はやく走りぬけていく
感じることのできない風が
あなたの後ろ姿を隠してしまった路傍の草をゆらしていた
気候の境目で
これから暑くなるという無声の言葉となって勇気をうしない
あなたの過去は
複雑な糸をはりめぐ
そこはすでに夏の窓枠
すぐそこ窓枠にまでもう夏がきていて
横断歩道が終わるまでいっしょに歩く見知らぬ同士ふたりに
よけられそうな初夏の小雨が降りかかっているのである
わたしはそのころ
雨粒ひとつひとつは打撃であり
その打撃から水が生じると考えていたが
虫たちもそう考えていたはずである
顔を見失うと声を見失うので
「声は顔から出てくる」というメモを残しておくが
見知らぬ同士ふたりのつかの間の横断歩道に初夏は開かれていた
最後の駅を発ってから眠れ(2)
仮設住宅の隙間を通ってきたという風に背をおされて冬の地理が成る
廃校の屋根を見上げるたびに積もることのない雪をきみはゆびさす
積もることのない雪を見るたびに廃校の屋根をきみはゆびさす
思い出は切れ端となって死者のように近すぎる
引き出しから出てくる一行も書かれていない手帳の最初のページから引き返して私たちはここに至る
私たちは昨日の欠席者となって引き出しの中の一行も書かれていない手帳を開く
昨日の
月日は悲鳴もなく閉じられる扉の一部か
どれだけの雨を運んできたのかしらない風の吹く翌日
となりのビルの屋上の球形の給水タンクと同じ高さで目をとじている
雲の切れ目には別の雲があり
光は来ない、光が来ない理由も来ない
私たちは、耳に残る濁音とともに
くりかえし瓦礫を運ぶトラックの軽油になって消費されたいと願った
翌日、それから翌日の翌日
月曜日の雨がまだ降っていた
地中の水となって咳込んで前屈みなったひとの背に噴水として降り注いだ
私た
列車を見送らなければならない
細すぎる月に照らされてきた半世紀の川が増水をくりかえしている
詩人がいない土地なので贈り主となって雨を降らせ
振り返らない夏の背中をきみと見送った
子どもたちのように増水した川をみている
きみの存在がわたしの存在だった八月の川をみている
そこからのぞむ夏空にもトンボは舞い
舞うことに罪を着せる風がそのときも吹いている
ホームではあらゆる列車を見送らなければならない
愛する罪を問いながら
きみは
七月の傷だらけの背中が遠ざかっていく
風があるとしてもぼくたちを吹いている風ではない
濡れまいとして傘を開いただれかに降りかかる雨があるとしても
ぼくたちに降る雨ではない
やがてきみの姿となる光に照らされて夜の破片を踏んでいる
きみの不在はまだ深い井戸の底にあって
ぼくが振りかえるときにみる暗がりの正体を知ることはない
遠ざかるものを見送るにはまだ早い
ぼくたちはまだ近づいているさなかだ
きみの言葉は口にされる前にすでにぼくたちふ