農家のしあわせ/あきちゃん
玉ねぎの苗を、育てている。
もうすこしで植え付けられるまでに、
根が苗床で育ってきている。
関東では、セオリー通りに行けば
9月15日頃玉ねぎは種を蒔き、苗を育てる。
しかし、今年は種を蒔くのが
遅れてしまった。
玉ねぎ自体、蒔くかどうか悩んでいた。
わたしは、ネギとことごとく相性が悪い。
今まで、ネギ苗を育ててうまくいった試しがない。
ネギに対する苦手意識が
余計に作業へのとりかかりを遅らせた。
*
しかし、10月、意を決して種を蒔いた。
「意を決して」、、
種を蒔く ということは
いのち に責任をもつこと
わたしはそう捉えている。
野菜は生き物だ。
いのちだ。
蒔いたからには、、
覚悟を決めて、種まきをした。
*
いつもは、玉ねぎに肥やしは入れない。
しかし、今年の夏の長ネギの失敗を生かし、
「やはり、畑で長期間育てる玉ねぎには、自家製の肥料を入れよう」
とわたしの試行錯誤も同時に始まった。
*
まず、苗を育てる土選び。
ホームセンターの土ではない。
自分の5か所の畑から選ぶ。
ほどよく湿り気があり、
肥料が最小限で済むような
ふこふこの土。
そして、そこに加えたのは、
肥料分を抜きながら、
2年熟成させたふわふわの温床堆肥。
配合の比率も、玉ねぎのことを
よくよく考えながら。
10月に蒔くとなると、12月頃、霜が降りてから畑に出すことになるだろう。
そして、収穫は6月の梅雨入り直前。
それまで、追肥はするものの、
強い苗を育てることで、
追肥の量も減るし、、なんて考えながら。
苗を育てている間は気が気じゃない。
芽を出すまでは、水を切らさないように…
しかし多すぎても、
玉ねぎにとって良くないので
「しっかり水が抜けてから。
しっかり水が抜けてから。」
急いてしまい、水を与えたくなる
自分に言い聞かせた。
残暑が過ぎ去り、日が照る時間も
短くなっていく。
今度は保温も大切になってくる。
周りの農家さんたちは
ハウス内で苗を育てるが
うちにそんな広いハウスはない。
小さな畑の端に
苗を並べ、育てていた。
*
ふと、ある時、玉ねぎの生育が止まっている…
そんな不安に襲われた。
そこで、苗床の下に、
夏にたくさん生えた雑草の枯れ草を敷いてみた。
これがご名答!
土に直に置くより、苗を下から温めてくれた。
同時に、入り組むように重なり合う枯れ草は、
空気の流れ道も作ってくれた。
根の周りには、無数の微生物が生息する。
それは苗も同様で、微生物が呼吸できる状態をつくることは、苗づくりの大事な要素となる。
それからそらに日が沈む時間が早まってきたころ、また玉ねぎの成長が止まる。
今度は、枯れ草を腰の高さから、
やさしく、やわらかく
苗を傷めないよう、ふるい、苗にかけてやる。
この玉ねぎは、どんな風に調理されるんだろう?
この玉ねぎは、どんな人に出会うだろう?
玉ねぎの苗を育てながら、
いつものお客さんの笑顔や
「おいしすぎて、しあわせ!」
が心の中でこだまする。
*
そして、今日、11月25日。
1600個ほど蒔いた玉ねぎの一部を
畑に出した。
畑に出す時も、
「夜はすこし寒くなるからね。」
畑の枯れ草で囲ってやる。
「信じてるぞー!」
喜びと不安と、成長を楽しみに思う気持ち。
そして、また浮かぶは、
支えてくれる人たちの言葉や姿。
「なんてしあわせな時間だろう」
にこにこしながら、苗を植え付ける。
農家にとって、売上は結果でしかない。
ある意味、お金と言う数字で
努力を評価してもらえるのかもしれない。
しかし、ほんとうに大切なものは、そこにはない。
ハラハラドキドキ、逃げそうになる自分を奮い立たせながらも、だいすきなお客さんや先輩農家さんたちの笑顔、こころ、姿を思い浮かべて、野菜を信じ、見守り、サポートする。
この時間に、農家のしあわせはあるのだろう。
来年の6月まで、気が気じゃないのが嬉しくて仕方ない。