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【感想】映画『鍵泥棒のメソッド』ネタバレあり

※ネタバレ注意
別所で大昔に書いた感想をそのまま持ってくるのは忍びなかったので、改めて鑑賞し、加筆して書いております。

【あらすじ】
銭湯で転倒し頭を強打。記憶を失った羽振りのいい男。
居合わせた売れない貧乏役者・桜井は、出来心からロッカーの鍵をすり替え、彼になりすます。が、その男はなんと誰も顔を見たことない伝説の殺し屋コンドウだった!桜井は男にきた大金の絡んだ危ない依頼を受けてしまい、大ピンチに。一方、記憶を失い、自分を桜井だと思い込んでいるコンドウは、真面目に努力して、役者として成功する事を目指し始めてしまう。そんなコンドウの姿に好感を覚えた婚活中の女性編集長・香苗は、なんと彼に逆プロポーズ!
失われた記憶、大金の在りか、そして結婚の行方――複雑に絡み合った事態の行く末には、なんと、映画史上に残る爽快でトキメくラストが待っている!?

Filmarksより

【登場人物】
桜井武史:堺雅人
元劇団員の青年。35歳。銭湯でコンドウの鍵を交換して、殺し屋のコンドウとして生活することになってしまう。

コンドウ / 山崎信一郎:香川照之
殺し屋の中年。銭湯で転んだ拍子に頭を打って、記憶喪失になってしまい、自分のことを「桜井武史」だと思いこむ。

水嶋香苗:広末涼子
雑誌編集者の女性。35歳。年内になんとか結婚しようとする。

wikipediaより

アフタースクールに続き、内田けんじ監督作品。
開始早々から銭湯で思いっきりぶっ飛ぶ 香川照之のインパクトがすごいw
公開前の予告動画でも散々観たシーンだけど、気持ちいいぐらいブッ飛んでて、そしてギリッギリ見えそうで見えないっていう画角の良さも素晴らしい。アフタースクールも名作だと思うけど、前半があまりに淡々とし過ぎてて少し退屈に感じてしまう場面もチラホラありましたが、この作品に於いてはそういったシーンが全くない。ずっと面白い。常に何かが起こってる。

銭湯で転んで、そのまま記憶を失くした謎の男山崎と、借金まみれで自殺しようとするものの失敗してしまった売れない役者桜井
山崎が転んで気絶している際、彼が落としたロッカーの鍵を自分のそれと入れ替えた桜井が、彼の荷物を持ち逃げするところから始まります。

盗んだ高級車と財布で借金を返済して回り、免許証に書かれた住所に行けばタワーマンション。
病院で意識を取り戻すも記憶がない山崎は、自分の持ち物から自身が桜井という売れない役者であると思い込み、吸ったこともない煙草をかつての習慣だからと吸い始め、半ばゴミ屋敷と化していたボロアパートに帰宅する。
魔が差した桜井の行いのせいで、ふたりの人生がコロっと入れ替わってしまう。本来なら有り得ない話なんでしょうが、このギリギリ有り得るかも知れない絶妙なラインを持ってくるのが、脚本兼監督の内田けんじ氏のすごいところ。

なんだかんだ小心者の桜井は、山崎がその後どうなったか気になって、病院に見舞いには行くわ、ボロアパートまで訪ねるわ……そしてもともと自殺しようと思っていたこともあり、置き去りにしていた直筆の遺書を記憶喪失の山崎に音読され、その上「こんなに文字も乱れて……!相当精神的に追い詰められていたんだと思います」からの「35にもなって、定職もなくて、こんなとこ一人で住んでれば、死にたくもなりますよねぇ!?」遠回しどころか火の玉ストレートでディスられてるのもパンチの効いてて最高です。
しかも、桜井の服はしっかり堺雅人サイズなので、香川照之が着るとピッチピチで似合わないところもジワジワくるのが、最早ズルイです!

(C)2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会


内田けんじ監督作品は、脚本からしっかりコメディであるが故に、却って役者の演技力が求められるんだなと観れば観るほど強く感じます。
観客たちに『確かにこの役者は売れないよな……』と思わせる、説得力のある絶妙な塩梅。
売れない役者・桜井役の堺雅人さんの演技力はもちろんですが、記憶喪失になったことで、意図せず桜井の人生を送ることになった山崎の、几帳面な性格故に八方塞がりだった人生が拓けていく様がまた面白い。
そして山崎と入れ替わった桜井も、実は山崎がコンドウという名前の殺し屋なのではないか?と気づき、突然かかってきた電話から流されるように殺しを依頼され、自身のだらしのない性格故にどんどん追い詰められていく。
逃げることも、言い訳も許されない窮地に陥った時の、思わぬ演技力を発揮する場面も素晴らしい。
一度人生が入れ替わってしまったからこそ、互いの人生に於いて足りなかった部分への気付きを得て、記憶を取り戻した山崎と、良い人生経験をした桜井がどちらも以前よりも良い人生を歩むことになるラストが最高でした。


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