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満ちるためのコク

「満ちる」という言葉

一人暮らしをするようになってからよくこの言葉を使うようになった。以前から使っている気もするけれど、一人暮らしをしてから「満ちている」と実感することが多くなった。

それは、目に映るもの、全てが自分で揃えたもので、全てが愛おしいから。誰にも邪魔されずに、自分に関係のないものが一切なく、心地よいものだけが揃った空間で生活をしているから。

自分の家で過ごしていると、自分と世界が調和したような、一体化したような気持ちで満たされていく。

満ち満ちな我が家

インテリアに限らず、自分の意思で手に入れたものには、同じように「満ちる」気持ちを感じることが多い。
これまでに知ったあらゆる喜びを頼りに選んだ、環境、考え方、生き方も、目に見て分かりやすいファッションやヘアスタイルでも同じ。

過去を振り返ると恥ずかしくて、目も向けられない時代もあるけれど、その全ての過程でいつも私は一人でに満ちている。
他者を介入させないというか。自分の手で、足で、一から学んで、一から「心地よさ」を整えていく感覚。

直感を頼りに生きすぎて、家族や友人、恩師を心配させることも多いけれど、この心地よさと取引をしてしまったからには後に引き返せない。

満ち満ちな毎朝の風景


コクとは

自分の部屋、インテリアについては、物心がついた頃から興味があった。長年で培った自分なりの好みが、空間にコクを出していると思う。
私だけのテンション。そういうものが分かってくると、コクが出てきたと感じる。

コクを作るのには、時間や経験を通して「自分なり」のベストやベターを知っていく必要があるのかも、と書きながら考えている。
ここで私のインテリアの煮込み工程の一部を挙げてみる。

実家で与えられた小さな部屋を、どれだけ自分の気に入った空間に変えられるかをひたすら考えていた。小学生高学年あたりからだと思う。一人でせっせと家具を移動させた日の夜、新しいレイアウトで初めて寝る前に「この位置で寝るのも良いな」と部屋を眺める時間が楽しかった。

近所に集合住宅ができた頃は、友だちを誘って一軒家のモデルハウスを見学するという遊びをしていた。小学生の子どもなどターゲットに掠りもしないが、その当時は整ったインテリアをリアルに感じられる喜びでいっぱいだった。

他にも、おじいちゃん家の近所にあったアウトレット家具の店に行っては、色んなコーディネート、家具、小物を見てワクワクしていた。軽く十年は通っていたと思う。
大学の関係で初めて一人暮らしをすることになった時には、その店で、ペールグリーンのソファを買った。焼肉屋で稼いだバイト代で買った、人生で初めての大きな家具の購入に、とても高揚したことを今でも覚えている。おじいちゃんと二人で買いに行って、バスでツーショットを撮ったことも覚えている。

そんな思い出のペールグリーンのソファと共に大学生活を送った。限られたお金で、近くのニトリやナフコ、IKEAでベターなインテリアを集めていた。勉強よりも家具を動かしていた時間の方が長いのではないかと思う。

今見ると、ややファンシー


そういった小さい頃からのインテリアへのあこがれと、数回の実家の引っ越しと数回の一人暮らしの経験を重ねて、空間の広さや機能というハード面、インテリアというソフト面のどちらにも自分なりのニーズがあることを知った。
どんな雰囲気が好きか。何に妥協できて、できないか。どういうライフスタイルを送りたいか。誰のアドバイスもいらない。

時間をかけて、自分だけのコクが育ってきた気がする。

仕事に満ちるために

インテリアにかけてきた時間はそれなりにある。だから、自分の満ちるポイントも分かる。
同じように、まだ始めて数年の仕事もこれから育てていくものだと思っている。初めから自分の満ちるポイントを見つけることはできない。そういうものだと思っている。

当時は無意識だったけれど、これが、大学生の頃、みんなと同じような熱量で就活ができなかった理由の一つだと今なら分かる。「何に興味があるのか」「どういう形で携わりたいか」について考えたことが一切無かった。手がかりは、インテリアしかなかった。それを一から育ててみるために、大学ニ回生の冬から、内装設計の専門学校に通い始めたんだと、今なら答え合わせができる。


仕事のコク

私は今、博物館のプランナーとライターをしている。
内装設計の会社で数年間働いた。最初の頃は商業施設のアシスタントプランナーをしていたが、博物館を担当するようになってから、仕事がそれまでとは比べものにならないぐらい楽しくなった。
そこで、自分がまあまあな知的好奇心を持っていること、コピーライティングやワーディングが得意かもしれないことを知った。
趣味の読書が仕事に影響していたのかもしれない。読書を経由して自分の得意なこと(知らないものをフムフムと楽しめること、活字が苦ではないこと)を自覚したという方が近いかもしれない。

こういう発見がコクの一部になっていくのだと思う。

情報収集のためにビッグな図書を借りた日


以前の職場ではライターの仕事は守備範囲外だったこともあり、独立して働いてみている。この仕事が適職なのか、この働き方がフィットしているのかすら分からない。ただ楽しいから、必要とされているから、居心地がいい働き方だから続けていけている。満ちる感覚もあるけれど、少し怖いと感じることももちろんある。

こういう試みもコクを出すエッセンスとして今後活きてくるのだと思う。

この先、どうしていくのかは今の自分には正直分からない。でも、今後の自分、明日からの自分、これまでの自分が、一から育てていくのだと信じている。

何はともあれ?、私の場合は「満ちる」感覚を頼りにひたすら生きている。MBTIで自分がENFPなのもかなり納得している。こういう感じで生きるのに多分向いているのだと思う。今はそんな感じ。

私の人生のバイブル、太宰治『正義と微笑』
この文章はもちろん、最後の文章が大好き

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