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【美術展】紫式部へのオマージュ/東京国立博物館(東京都台東区)

源氏物語が好きで、関連の作品の展示があるといそいそと見に行くせいもあるが、源氏物語、紫式部をテーマにした美術品の多さには、この1年圧倒された。

今回は、平成館の企画展示室で展示(2024年10月1日(火)~ 11月10日(日))されている「源氏物語図屏風(若菜上)」が見たくて、トーハクを訪れた。

2024年10月24日(金)
本館を入ってすぐの大理石の階段と壁時計には、いつも心躍らせられる。

壁時計が示すように(午前の)11:00に到着。人の流れが途絶えるのを待って撮影したが、この日は私が行った中で一番空いていた印象。それもこれも、お隣の「国立西洋美術館」で「モネ 睡蓮のとき」を開催しているからだろうか。ありがとう!「国立西洋美術館」!


★「小袖 淡紅うすべに縮緬地幕紅葉ちりめんじまくもみじ模様」

★「小袖 淡紅うすべに縮緬地幕紅葉ちりめんじまくもみじ模様 18世紀・江戸時代
幔幕まんまくに紅葉を表わした模様は『源氏物語』の「紅葉賀もみじのが」をモティーフにしたデザインで、江戸時代中期から後期にかけて人気の高かった模様の1つ。幔幕に細かく描かれた模様や紅葉の葉には、1つ1つ丁寧に友禅染ゆうぜんぞめ特有の色挿いろさしやぼかしがなされている。

幔幕:行事の場所などを他と区別するために、まわりを囲むのに用いられる布製の用具。

日本画や、日本の伝統工芸品をよく目にするようになって、分からない単語が多すぎ。その度にその単語の意味を確認して、へぇ、ほぉ~、である(;^ω^)。

★「振袖 白絖地ぬめじ竹矢来たけやらい文字模様」

「振袖 白絖地ぬめじ竹矢来たけやらい文字模様」18世紀・江戸時代
『源氏物語』の「若紫」の帖がモティーフ。紅葉の模様は、光源氏が紫の上を自邸に迎えた季節を意味するのであろう。

背中側が展示されていたが、「紫」の文字が刺繍されている。

こちらはこの振袖の前身頃。袖に「若」の文字が刺繍されている。
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/440351(文化遺産オンライン)

分からない単語もそうだが、いったいこの文字列はどこが切れ目?なものも多い。また、単語の意味を調べて、その説明文にまた知らない単語が出てきて、なんということも頻々とある。
ぬめ:生糸を用いて繻子織しゅすおり にして精練した絹織物。
繻子織:表面に、経糸たていと緯糸よこいとのどちらかのみが現れ、手触りが滑らかで光沢があるのが特徴。英語ではサテンと呼ばれる。

竹矢来:竹をあらく交差させてつくった囲い
この言葉を調べたら、今更ながら、日本の気候による建築様式の知恵と、家の格がわかることに、へぇ~、であった。
脱線してしまうが、備忘録のために記す。
竹矢来の最大の目的は、雨水あまみずによってもたらされる建物の汚れ防止。

竹矢来がないと、このように壁面が汚れるらしい。
竹矢来を設置するためには敷地の境界線から屋敷の外壁を下げなくてはいけない。つまりそれだけ実質の建物に使用する面積が減ることになる。財力が無い家には竹矢来はない。

着物を紹介していたのに、何故に、建築の話。。。
さて、お次は、

★「女房三十六歌仙図屏風」画:土佐光起みつおき筆 17世紀・江戸時代

右側にある6曲1隻の屏風がそれ、
有難いことに「紫式部」の文字だけはきちんと読めた!

和歌は、

みよしのは
はるのけしきに
かすめども
むすぼほれたる
ゆきのしたくさ

「吉野はもう春らしく霞んでおりますが、雪に隠れた下草は凍り付いたまま(わたしの心は凍りついたまま)」

中宮・藤原彰子に仕えることになったが、ほどなくして自宅に引き篭もってしまう紫式部。この歌は、正月十日ごろに「春の歌を献上せよ」との命があり、自邸で詠んだもの。


★「源氏物語図屏風(明石)」

「源氏物語図屏風(明石・蓬生)」の右隻・明石
供人を従えて、明石の君宅へ向かう馬上の光源氏
右側が「源氏物語図屏風(明石・蓬生)」16世紀・安土桃山時代
供人ぞろぞろ、
馬上の光源氏

この屏風では、明石の君宅へ向かう源氏が描かれていたが、他の作品では、
光源氏と明石の君の父親・明石の入道と合奏している場面が描かれているものがある。

重要文化財「源氏物語画帖」土佐光吉・長次郎 17世紀・桃山~江戸時代 京都国立博物館蔵

★「源氏物語図屏風(蓬生)」

「源氏物語図屏風(明石・蓬生)」の左隻・蓬生よもぎう
帰京した光源氏が、変わらず源氏を待ち続けていた末摘花すえつむのはなを訪ねる場面「蓬生」

末摘花、物語の中では醜女として登場するのに、このように顔出しで描かれれることが多い。私も好きな登場人物なのだが、昔から愛されキャラだったのだろうな。

★「源氏物語図屏風」17世紀・江戸時代

「源氏物語図屏風」右隻 17世紀・江戸時代
「源氏物語」54帖のうち、金運と建物で場面を区切りながら8帖の場面が描かれている。
右隻:桐壺、花宴、初音、葵、空蝉

第1帖「桐壺」

光源氏12歳の時、清涼殿の東廂ひがしびさしで元服の儀式が催される。
右が光源氏の父・桐壺帝
この屏風では、桐壺帝の「顔」が描かれているが、

絵によっては、やんごとなき帝のお顔を御簾で隠して描かないものもある。

「源氏物語画帖」住吉如慶じょけい 江戸時代 サントリー美術館蔵


第3帖「空蝉」

「空蝉」の鉄板の場面、光源氏が、碁を打つ空蝉と軒端荻のきばのおぎ(空蝉の義理の娘)を垣間見る。

第8帖「花宴」

花の宴の夜に光源氏が、弘徽殿の細殿ほそどので朧月夜の袖をとらえる

朧月夜の父・右大臣は、朧月夜を東宮へ入内させたいのに、光源氏に朧月夜の周りをうろうろされてはたまったものではない。
時代が昭和まで下ると、こんな風に艶っぽく描かれたりする。

「花の宴 源氏ものがたり」松岡映丘えいきゅう 昭和時代 二階堂美術館蔵

第9帖「葵」

光源氏が若紫の髪を削ぐ場面。光源氏の手に刃物が握られているのがわかる。

「葵」の帖は、光源氏の正妻・葵の上と、源氏の年上の想い人・六条御息所との「車争い」が場面としてはよく描かれる。この若紫の髪を削ぐ場面は、絵としてみるのは私は初めて。

他にも若紫の髪を削ぐ絵があった。
「源氏物語絵巻」葵 萩生天泉おぎゅうてんせん 昭和時代 大阪青山歴史文学博物館蔵
「葵」の帖はこの場面が描かれることが多い。
賀茂の新斎院御禊さいいんごけいの日、見物の場所をめぐって葵の上方と六条御息所方が車争い。
重要文化財「源氏物語画帖」土佐光吉・長次郎 17世紀・桃山~江戸時代 京都国立博物館蔵


次に紹介する「初音」もそうだが、この屏風は「おめでたい」場面や「艶っぽい」場面で構成されているのだな、と思った。

第23帖「初音」

明石の姫君(光源氏の子)のもとに、明石の君(明石の姫君の実母)から新年の贈り物が届く場面だろうか。鬚籠ひげこのようなものが描かれている。

ちなみに、鬚籠とはこのようなもの

源氏物語の「初音」に関する美術品を初めて見たのが、東京国立博物館でだった。

「初音」、物語としては、地味と表現していたが、今回「初音」を調べて、「初音」がやんごとなき人々の「婚礼調度品」になるほど、おめでたいものだと認識を新たにした。

(源氏)物語では、この年の正月元日がちょうどおめでたいの日であった。春の訪れを告げる鶯の「初音はつね」と「初子はつね」を重ねた題材で、まことに 婚礼調度にふさわしい。

徳川美術館

第6帖「末摘花」

「源氏物語図屏風」左隻 17世紀・江戸時代
末摘花と睦言があった翌朝、随身に庭の橘の木に積もる雪を払わせる場面。

この帖はこの場面がよく登場する。

「源氏物語絵巻」17世紀・桃山~江戸時代 毛利美術館蔵

末摘花は「源氏物語」の中で、容姿に関して最もさんざんな書き方がされるお姫様だが、ひたすら光源氏だけを待つ姿に心打たれる。私の一番好きな登場人物。


第7帖「紅葉賀」

「源氏物語図屏風」左隻 17世紀・江戸時代
光源氏の父・桐壺帝の朱雀院すざくいん行幸に際し、光源氏は頭中将と青海波を舞う。

「源氏物語」を読んでいるとでてくる、雅楽。どのような調べで、どのような舞いなんだろうと興味があった。
それが、静嘉堂文庫せいかどうぶんこ美術館で「雅楽コンサート 源氏物語に綴られた音楽」という催しで、実演される!どうしようか、迷っていたが、これをかきながら「行く!」と決めた。行かなかった後悔はしても、行った後悔はしないはず。

青海波を舞う光源氏たちの後ろで奏でられる雅楽


第14帖「澪標」

「源氏物語図屏風」左隻 17世紀・江戸時代
光源氏はがんほどきのため住吉大社を参詣。鳥居の下にいるが光源氏なんだろうか。
この帖の白眉はなんといっても住吉大社に詣でる源氏一行の華やかさ。
吉岡幸雄さちお氏による『「源氏物語」の色辞典』でのこの帖の華やかさをこのように表現している。
光源氏の栄達を目の当たりにした明石の君の舟は、そのまま住吉の浜を去ってしまう。


★令和5年度新収品しんしゅうひん「源氏物語図屏風(若菜上)」

「源氏物語図屏風(若菜上)」伝土佐光則 17世紀・江戸時代

女三宮(光源氏の正妻)が桜の下で蹴鞠けまりをする貴公子たちを御簾の間近で見ていた折、猫が御簾を引き開ける。
この帖は光源氏の因果応報が描かれる、劇的な帖でもある。「若菜上」を描いた場面で、これ以外の絵を見たことがないほど、女三宮、蹴鞠、柏木は三点セットとなっている。

猫が御簾を引き開けたせいで、女三宮の姿を柏木に見られてしまう。
一番右端の貴公子が柏木(光源氏の友人・頭中将の息子)。かねてより女三宮に思いを寄せていた柏木の心が、恋慕の帖にみち乱れていく。

★「色絵紅葉賀もみじが図茶碗」仁清にんせい 17世紀・江戸時代

胴を卵形とし、口縁を外に開く珍しい形。
「源氏物語」の「紅葉賀」の帖を主役の光源氏を描かない、「留守模様るすもよう」であらわしている。

この1年、「源氏物語」がいかに人々に愛されてきたかを目の当たりにした。作品そのものを楽しむのみならず、絵画に、陶芸に、嫁入道具にと、そのすそ野は遥か過ぎる。一生楽しめる物語と意匠にただ感謝しかない。
ありがとう、紫式部。

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