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【美術展】所蔵作品展「MOMATコレクション」(2024.4.16–8.25)/東京国立近代美術館
企画展・TRIOを楽しんだ日の所蔵作品展。11時からのガイドスタッフによる所蔵品ガイドに初めて参加した。
ガイドスタッフとの「対話」を楽しむ鑑賞。この日紹介下さった美術品3点は、私だったら素通りするか、選ばない作品だった。
1. ガイドスタッフさんが選んだ3作品
★「スフィンクス−ミュリエル・ベルチャーの肖像」フランシス・ベーコン
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アイルランド生まれのフランシス・ベーコン(1909-1992)は、ロンドンを拠点にして世界的に活躍した画家。ベーコンは、ピカソと並んで、20世紀を代表する画家と評されている。描かれている「女性」ベルチャーはロンドンのソーホーにあった会員制のバーの主人で、ベーコンはそこの常連。人前でベーコンのことを「私の娘」と呼ぶほど、ふたりは深い友情で結ばれていたそう。ベーコンが生きた時代、同性愛は犯罪。その時代に彼は自身がゲイであることを公表していた、というから驚きだ。
この時代の同性愛のラブストーリーはこれが一押し。
話を絵に戻すと、
一見した時の迫力と異様さが、引用した画像では伝わらないのがもどかしい。描かれている人物は女性だが、胸の膨らみ以外、女性を感じさせるものはなく、その上半獣半人のスフィンクスと一体となっている。この絵を紹介して下さったスタッフさんは、この絵が「好き」だとおっしゃった。私には全く分からない、好きからほど遠い絵を好きだとおっしゃる感性に触れるのが、刺激的で楽しい。
次にご紹介下さったのはこの作品、
★「蟻」ジェルメーヌ・リシエ
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東京国立近代美術館のHPを開くと、この彫刻ががTOPページに掲示されているので目にする機会が多い。
女性の身体と蟻の身体が組み合わされた生き物。
手先、足先から延びるワイヤーの存在が、見るものにその存在の意味を考えさせる。
ワイヤーは像の周囲の空間を可視化し、その存在によって、この生き物の動きは、強調されているようにも、抑制されているようにもみえます。
不安定で一見倒れそうにみえても、次の動きを不安定のなかにはらむことによって、かろうじて均衡を保っているような形態。
こうした不安定さは、リシエと同時代の彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(1901–1966)の作品にはみられないもの。ジャコメッティの彫像は、細長くやはり表面に凹凸があるものの、直立ないしは確かな足取りで歩みを進めています。
引用されたアルベルト・ジャコメッティ(1901生~1966没)の作品。
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アルベルト・ジャコメッティは私が大好きな「猫」の彫刻家ディエゴ・ジャコメッティ(1902生~1985没)の一つ年上のお兄さん。
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3つ目の作品、
★「UNTITLED 94-6」辰野登恵子
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アーティスト・トークでの辰野氏ご本人の言葉から、
空を手で(四角く)仕切って見た時の、指の中の空気と外側の空気が違ったものに見える。
空洞の中とそれ以外の現実の差。
仕切りの中側と外側の差、内と外の差を描きたい。
色とかすかなマチエールで違いを出したい。
このYoutubeの画面の後ろに、今回の絵の一部分が見えるが、結構な大きさの絵だった。
あの時はもうこれらの作品は見なくてもいいかな、と思ったが、これを描いた後の今振り返ってみると、もう一度対峙してみたいなと思う。これが美術館に所蔵される芸術品の力なんだろうか。
2. 私が気になった作品
★「墨田河舟遊」鏑木清方
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4階第1室は前回も屏風六曲一双だったが、今回も同じく屏風の大画面。前回は春だったので桜だが、夏の今回は舟遊。
江戸時代後期の隅田川の舟遊びの情景。右隻には、人形舞の宴が描かれている。
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★「渡船、雨宿芝山象嵌屏風」
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芝山象嵌:象牙や貝などを素材を嵌め込み、蒔絵を施した漆工芸の技法。
芝山とは、現在の千葉県にある地名で、江戸時代・安永(1772〜1781)年間の頃この町で生まれ育った江戸の小間物商・大野木専蔵が象嵌技法を創案、評判を呼んだことから、作品に郷里の銘を入れた。幕末には西欧への豪華絢爛な輸出工芸として発展した。
技巧の素晴らしさと美しさにうっとりした。
★「壺の上に林檎が載って在る」岸田劉生
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岸田劉生の「細密描写」期の作品。
壺の色味と質感がいい。
★「女」古賀春江
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作者名、春江を見てぼんやり女性の画家と思っていたら、男性だった!この絵を描いたころはフランスのキュビズム系の画家「アンドレ・ロート」の影響を受けたいたらしい。なるほどな絵。キュビズム、あまり好きではないが、この絵はいい。キュビズムにしては写実的なところと、着物の色味が好き。
★「夕」三谷十糸子
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お風呂上がりの幼子二人。
描かれているのが人間なのか、動物なのか、作者が作品に込めた意図を探らなくていい、素直に描かれているものを優しい気持ちで楽しめる作品はやはりいい。
忖度したり、地雷を踏まないように気を付けたり、隠された意図を探らないと生き辛い現代において、心をほどくために単純に美しいものに触れに美術館に行く。