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【読書】「その男」池波正太郎

幕末から明治へ、数奇な運命を辿った直参の剣士・虎之助の生涯と維新史の断面を描いた時代小説。

この小説で西郷隆盛の生き様を知った。西南の役に引っ張り出され、薩摩軍がいよいよ進退窮まり、西郷自らが陣頭に立つ、と言う。危ないから止めてくれという幹部に

「そいじゃ、このわしに、どこへ行けというのじゃ」

「その男(三)」池波正太郎

電車内で読んでいて、泣きそう。

西郷をここまで引張り出し、賊軍の汚名を着せ、惨憺たる戦況の中につれこんでしまい、いまさら指揮をとろうがとるまいが、身の危険に変わりはないのである。

「その男(三)」池波正太郎

武士の時代の終焉は、西郷隆盛ほどの人の惜しまれる最後をもってでしか成しえなかったのだろう。
賊軍として死んだのに、銅像を建立されるなんて他に知らない。

西郷隆盛像@東京都台東区上野公園

池波正太郎の書くものは若いころによく読んだ。白か黒か、ゼロかイチかではなく、灰色もあるんだ、と若いころに彼の本から諭された。大好きな作家の一人でもある。

みなそれぞれに暮らしもちがい、こころも躰もちがう人びとを、白と黒の、たった二色で割り切ろうとしてはいけない。その間にある、さまざまな色合いによって、暮らしのことも考えねばならぬし、男女の間のことも、親子のことも考えねばならぬ。ましてや、天下をおさめる政治(まつりごと)なら尚さらにそうなのだ。
おのれの立場だけを、しゃにむに押しつけようとしても、そこには何の解決も生まれはせぬ

「その男(三)」池波正太郎

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