阪急阪神百貨店・松屋銀座が取り組むVOCを活用した顧客エンゲージメント施策とは
はじめに
今回は、「ブランド」という枠を飛び出し、「百貨店」が活用するVOC事例を、阪急阪神百貨店、松屋銀座からお招きした二人に座談会形式でお話ししていただきました。
「どのように活用しているのか?」
「導入して良かったことは?」
「活用することで変化はあったのか?」
気になる”リアル”なVOC活用事例を、セミナーレポートとしてまとめさせていただきます!
登壇者紹介
株式会社エンゲージについて
セミナー開始後、代表の藤谷より株式会社エンゲージについて、そしてエンゲージのサービスとその目的について説明いたしました。
エンゲージが思い描く”向上”
私どもエンゲージは、お客様エンゲージメントと従業員エンゲージメント両方の向上を支援しております。
弊社が提供しているNPS計測やVOC収集サービスツールx-gaugeは、リアルタイムで集計分析することができます。
エンゲージメント向上のために重要なのは、お客様からのフィードバック(NPS)収集です。NPSは、顧客のロイヤルティを示し、友人や知人への推奨度の指標となり、お客様のブランドへの愛着や共感を測定できます。
リアルなお客様のポジティブな声は、スタッフのモチベーションや店舗の業務改善に繋がり、それが組織全体の売上・業績の向上につながると考えております。
NPSが上昇することで、KPI(営業成績指標)も向上していくこの良いサイクルを、弊社のカスタマーサクセス活動としてサポートさせていただいております。
NPS・VOC活用導入の背景
登壇いただいたお二方に、なぜVOCが必要なのかとその活用法を伺いました。
●阪急阪神百貨店(西井氏)
・「毎日が幸せになる百貨店」
昨年4月の建て替えリニューアルを機に掲げた新たなストアビジョンが「毎日が幸せになる百貨店」です。さらに、我々H2Oリテイリンググループが掲げる「コミュニケーションリテーラー」の実現目標達成に向けて、お客様とのコミュニケーションを強化し、顧客満足度向上を追求しています。
もともと我々は2012年の阪急本店建て替えの際に「モノを売る」だけではなく、「モノのストーリー」や「モノに纏わる背景」を伝え、一緒にリテールする「情報リテーラー」と言う言葉を使ってきました。そんな中コロナ禍に入り、人と人とのコミュニケーションをより重視した「コミュニケーションリテーラー」という言葉へと進化しています。
百貨店は、小売業であると同時に、“接客業”でもあると思いますモノがどうか、という話だけではなく、それについて伝える”ヒト“がいかに重要かを再認識しています。お客様と繋がりあってファンになってもらい、ライフタイムバリューを上げていくことに一層力を入れています。
「お客様の暮らしを楽しく、心を豊かに、未来を元気にする楽しさNo.1百貨店」を百貨店全体のビジョンとして掲げ、阪神本店独自のビジョン「毎日が幸せになる百貨店」の実現に、全員で取り組んでいるのです。
・VOCのための行動指針
その上で、「お客様の喜びは私たちの喜び」というバリュー実現の行動指針が、「お客様の喜びのために①声を聴く ②最善を尽くす ③改善し続ける」という3ステップです。
①声を聴く
購入されたお客様に、アンケートメールを自動配信orアンケートカードの手渡し1日に210件ほどお客様の声が返ってくる→管理画面で確認
②最善を尽くす
返ってきたGoodコメントを共有し、朝礼や、時には商談中にもその話を出し、徹底的に褒める→スタッフの「こんなに見てくれているんだ」というモチベーションに繋がる
③改善し続ける
2週間に一度行われるミーティングにてクレームなどの意見も含めVOCを共有し、本社のスタッフも含めて改善案を出し合い、特に誰が主体性を持って取り組むのかをポイントとして、改善アクションを効果的に起こす
小売業がビジネスとして一番強い部分が、この「お客様の声を聴く」と言う部分だと思っており、それをいかに反映して改善に繋げていくかということが、一番重要なポイントだと考えております。
そして、お客様の喜びが私達の喜びであるということを、全員が実感できる。そういう企業文化を熟成するために、VOCを活用しております。
●松屋銀座(服部氏)
・NPSの重要性
まず、NPSの位置付けを社内でどうするかというところから始まりました。その際の調査で、NPSの高いお客様ほど購入率・購入金額(収益)が高いことがデータとして確認でき、相関関係が明確となりました。
やはり、お客様のロイヤリティを上げるにはあらゆるタッチポイントの満足度を上げる必要があると感じ、データを活用してお客様の声を理解し、アプローチしていくことに2017年くらいから取り組んできました。そんな中で2020年コロナ禍で、百貨店も休業せざるを得ない状況になり、その後、自粛期間中に改めて「お客様の声を聞こう」と話し合い、エンゲージのシステムを使いVOCを収集しました。
お客様の声から、どれだけの「気づき」を得られるか、そしてそれが当たり前になってしまっている店内環境等の改善に繋がり、イコール百貨店のブランディングに寄与すると考えております。
・お客様の声がモチベーションに
収集したデータで明確になったことは、「気分転換」が理由で来店しているお客様が多いこと。それは、不安定な情勢の中でも、リアル店舗で非日常な体験を求めている、求められているのだということが分かりました。加えて、ECで購入したいという声よりも、来店して購入したいという声が多かったことも、不安だった現場は勇気づけられモチベーションとなりました。
各フロアにVOCを反映したシートを貼り、そこに部門長からのコメントも載せていることも、販売員のモチベーションに生きていると感じています。
このVOC活用はまだ発展途上であり、これからもお客様の声を聞き続けながら、模索し、改善していきたいと考えております。
座談会
●VOC・NPSで解決したかったこと
西井(阪急阪神百貨店):ブランドや商品を起点として考えるのではなく、お客様起点の考え方に、文化として変えていきたいです。お客様の目線に立ち、人と人が繋がることで、ファン化に繋がり、ライフタイムバリューが上がっていく、そんな”毎日が幸せな百貨店”にしていきたいと思っています。
服部(松屋銀座):うちも仕入れをする時に「こういう商品が入る」「こういう企画がある」というモノ起点が多く、お客様の話はその後になっていました。やはり、お客様の声から館を運営していくという重要性を改めて感じ、実際に今変わったことを実感しています。
●導入後の変化
西井(阪急阪神百貨店):現場も我々も変わりましたね。以前は「何が売れたか」「どれくらい売れたか」という内容だった会話が、「お客様に何がウケたか」「お客様からこういう声があった!」というお客様目線の会話になりました。スタッフも、上司から指示されるよりも、実際にお客様の声を聞いて自分で考えたほうが、アクションを起こしやすいとも気づきました。ちょっとしたことでも、お客様からの声として共有することでその重要性を理解したり、自分の行動がお客様からの声につながっていると実感することで、素直に率直に動けるようになったと思います。
服部(松屋銀座):もっとも大きな変化で言うと、今駐車場の改善工事をしているのですが、これもお客様の声からのアクションになります。以前からお客様からのご要望はありましたが、この数年のVOC活用を通じて、背中を押されての実施となりました。他にも、西井さんがおっしゃったようにちょっとしたこと、細かなことでもお客様の声として上がってくることで、改善に向かってすぐに動けるようになりました。ポジティブなお客様でも、「トータルは大好きなんですが、ここだけがちょっと気になって…」というような、店に届きにくい声まで拾い上げてくれる。そしてそれが、店単位で終わらず、組織として共有し改善につなげていけるようになったことは、とても魅力的な変化です。
●VOC収集の現場への対処
西井(阪急阪神百貨店):そこは我々も一番気を配っているところで、面倒だな、やりたくないなと思われないよう、この取り組みはこういう改善につながっていくという先のことを共有するようにしています。そして、「徹底して褒める」という話をしましたが、本当にそれで、自分たちにも嬉しいことがある活動だと感じてもらえるようにしています。販売員へのアンケートも実施しました。「活用している、お客様の声がモチベーションになっている、具体的なアクションにつながっている」などポジティブな意見もありながら、「(やっても)あまり変わらない」との意見もあり、我々もスタッフの声を聞きながら改善していこうと思っています。
服部(松屋銀座):「見てくれている」「褒められている」「讃えられている」と言う認知称賛は、やはり人間の大きな原動力になると思っています。そして本当に伸びていく。いろんな方向から、お客様の声を使ってスタッフの認知賞賛を高めていくことで、VOC収集の重要性を自然と馴染ませることができます。今は、特に若手のモチベーションにつながっていて、さらにそこから推進していき、現場にフィットしていると感じています。
セミナー参加者からのQ&A
●インバウンドに対するNPS
西井(阪急阪神百貨店):基本的にはメールアドレスで会員登録している方へのアンケートを想定しているので、今のところ実施の予定はありません。
服部(松屋銀座):インバウンドの購入者はかなりのウエートを占めているので、その声を拾いたいという気持ちは大いにあります。ですので、数種類の言語に対応している等インバウンド向けのアンケートも検討しています。
●百貨店の行く末(高齢化・若者離れ/家電量販店との合併等)
西井(阪急阪神百貨店):百貨店というものの”価値”が、今通用しなくなってきているという話ですね。百貨店だから、という話ではなく、各店舗ごとの特性などをしっかり把握して伸ばしていくことが重要だと考えます。その中で、大型店舗の導入などは、その店舗の立地や考え方により、選択肢の一つなのかな、と感じますね。
服部(松屋銀座):インバウンドの話がありましたが、やはりお客様が「百貨店に何を求めているか」という話だと思います。海外のお客様からすると、日本の文化を体現する一つが百貨店だと感じていただいていて、そこが選ばれる理由にもなっています。百貨店もそれぞれテーマがあり、品揃えやコミュニケーションなど日々精進しているので、その中で、いろんな道を選ぶこともあると考えます。
●ネガティブなVOC(クレーム)に対して
西井(阪急阪神百貨店):見極めが大事だと思っています。ネガティブな意見を見て、スタッフのモチベーションが下がってしまわないよう最大限の配慮をしていますね。この内容が、改善に繋がるVOCなのかをしっかり見極めて次に持っていくようにしています。ただの個人攻撃のようなクレームもないわけではないので、スタッフが目にしないようスタッフはGOOD意見だけを見られるようにx-gaugeの機能で設定しています。
服部(松屋銀座):ネガティブな意見が入ったとしても、そのお客様を担当したスタッフに対しての意見ではない場合もあります。コールセンターに対してだったり、店内環境に対してだったり。そこから拾い上げられるポイントもあるので、ネガティブなVOCはマイナスをプラスに変えられる一面も持っていると感じています。
●取引先の販売員・他社雇用もありながらのVOC収集の浸透について
西井(阪急阪神百貨店):シンプルですが、(VOCの)推進担当者をつけて一生懸命浸透させていきながら、先ほども言ったように「褒める」ことを徹底することが、浸透につながると思っています。こんな声があった、と管理画面をみんなで見たりして、楽しいな、と思ってもらえるように活動することも大事です。
服部(松屋銀座):同じく成功体験の共有が一番重要だと思っているので、いろんなツールを使いながら、掲示板で張り出したりと工夫することで浸透していくと考えています。
●百貨店内での、取引先とのVOC収集について(共有やツールの被りなど)
西井(阪急阪神百貨店):うちは導入してまだ間もないということもあるからか、「ツールやアンケート内容がうちとかぶっている」等の声をいただいたことはまだありません。加えて、うちはハウスカードホルダーに対してメールでアンケートを行っているので、別枠として捉えていただいているのかなと思います。
服部(松屋銀座):取引先に対して言えば、VOCで収集した中にその店のポジティブコメントがあればその店の本社に手紙を書いて共有させていただいております。当然喜んでいただけますし、VOC収集の取り組みに対する理解にも繋がりますね。これは非常に効果のある事例だと思います。
●現場は売上とパーパス、どちらを大事にしているか
西井(阪急阪神百貨店):やはり「売上は売上」だと思います。今日の目標に向かって売上を上げていこうという数値の指標であり、そこに向けて手を抜くことはありません。一生懸命パーパスに向かっていくということが最終的には売り上げにつながりますし、そういう心持ちで接客すること自体が、売上向上の“足腰を鍛えている”イメージです。
服部(松屋銀座):NPSそのものの理解となりますが顧客満足を高めていくという大前提が必要だと思っているので、それが実現した上で初めて売り上げとそこからもたらされる収益に繋がるということを、営業、スタッフにいかに伝わるようにしていくかですね。まずはお客様の満足度を高める、というのが会社の動きですが、誤ったメッセージが伝わらないようにしています。
まとめ
今回のセミナーでは、百貨店がどうVOCを収集して、どう活用しているのかをお話しいただきました!
いつもお客様で溢れている百貨店ですが、慢心することなくNPS・VOCを活用し日々躍進しているからこその今があるのだと感じました。
改めて、その重要性を理解するセミナーとなりました!
今回、ご登壇いただいた両店にご利用いただいているのが株式会社エンゲージの「x-gauge」です。
ご興味のある方は、ぜひ、こちらから、ご覧ください。
https://en-gauge.jp/x-gauge
ぜひお申込みください!