毎日読書メモ(240)『妖精作戦』シリーズ(笹本祐一)
2ヶ月半くらい前に、有川浩『倒れるときは前のめり』(感想ここ)を読んだときに、作家になったきっかけとなったのは、笹本祐一『妖精作戦』を読んだから、と書いてあったのがすごく印象に残って、それまで笹本祐一という作家を意識したことがなかったので、とりあえず読んでみなくては、と、妖精作戦シリーズを他の本を読む合間に少しずつ読んだ。
笹本祐一『妖精作戦』、『ハレーション・ゴースト 妖精作戦PART II』、『カーニバル・ナイト 妖精作戦PART III』『ラスト・レター 妖精作戦PART IV』(当初ソノラマ文庫→現在は創元SF文庫)の4冊。どれも、度肝を抜かれるスケールの大きさと粗さにぶっ飛ぶ。同時代で読んだ若者がこれに熱狂し、これに追随したいと思い、有川浩のように自ら物語を作る人となっていったことがよくわかる。もっと若い時に読めなかったことが残念。笹本祐一はわたしと同世代で、『妖精作戦』が発表されたのが1984年、4作目の『ラスト・レター』が1994年。まだ、民間人が携帯電話を持つことが殆どなく、宇宙開発も足踏み状態だった時代に、まるでパラレルワールドみたいに、アルファ・ケンタウリからの異星人の攻撃に超国家的体制で対抗していたSCFという組織と、そこが最大の武器として使おうとしていたエスパーたち。
潜在能力が計り知れない位大きなエスパー小牧ノブが、国立にある全寮制の星南大学付属高校に転校してくる。転校当日にノブと出逢い、そのまま付き合うようになった榊裕、寮の同室の沖田玲郎と真田佐助、ノブと同室の鳴海つばさ、それに、どこかからの依頼でノブがSCFにさらわれないようにボディガードを請け負った探偵平沢。この6人が主要な登場人物として、常識的に物語を構築するのであればありえなような物語展開の中に押し込められる。本のはじめの登場人物によると主役は榊裕、ヒロインは小牧ノブ、ということになっているが、物語を推進するのはひたすら沖田だ。バイクで寮の廊下を爆走し(どれだけ広大で頑丈な寮なのだ)、突然ハイジャックした飛行機や宇宙船までも、ヤマ勘で操縦し、火器も操るし、脱出のためなら、施設を破壊することにも躊躇ない。主役は死なない理論を地で行く無茶さ。読んでいるこちらも死なないで国立に帰ってくると思って読んでいるが、とても戻れるとは思えないような状況でも帰ってくる不死身さ。空気読まないつばさが邪魔しなかったら、もっと恐ろしいことが出来ていたのか? あまりに野放図で、手に汗も握らない突飛さ。そして、高校生たちの会話を聞いていると、嗚呼、本当にわたしと同世代。わたしも、実際にこんな言葉遣いで友達と喋ったり、自分たちが同人誌に書いていた小説で登場人物に語らせたりしてた、という懐かしさ。
2010年代に刊行された創元SF文庫版では、本人のあとがきが刊行順に全部おさめられ、更に解説(『妖精作戦』の解説は有川浩で、妖精作戦愛が振り撒かれている)。とにかく、笹本祐一本人が、自分のやりたいように、書きたいように書き進めた物語に、熱狂的な読者が付いてきたことがよくわかる。SCFによるノブ強奪が物語全体の本筋となっているが、第2巻『ハレーション・ゴースト』だけは、そこからはずれた、もののけたちが国立に結集する、これも変な物語。映画「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」(押井守監督)へのオマージュとのこと。わたしはこの巻を読んで、キングギドラには腕がない、ということを知ったよ(そこが学びなのか!)。
もっと若い時に出会って、何回も繰り返し読んで、同じ位この作品を愛した人とつば飛ばす勢いで語り合える、そういう読み方が出来なかったのは本当に残念。
SCFの幹部級ですら、無線で連絡を取り合い、使っている機材とかももしや今わたしが使っているスマホよりメモリが少なかったのでは、と思い(実際アポロ11号の月面着陸時のロケットは、今のスマホよりメモリが少なかったらしいし)、なのに、月の裏側に基地を構え、宇宙空間に大きなステーションを浮かべ、そこでエスパーたちに宇宙人の侵略に対抗させている、予算はどこにあるのだ的な強大な組織と、じゃあノブはなんでSCFにくみすることにがえんじないのさ、とか、平沢と付き合ってる謎の占い師幹本沙織の正体は伏線回収しないのか、とか、4冊読んで物語が完結しても(相当切ない終わりである)、作者が広げた風呂敷は、たたまれないまま色々な形で読者の心に残っていると思う。
文学史でも、SF史でも、エンタメ史でも、本流にない、不思議な立ち位置の物語。これをもってジュブナイルSFとかラノベの嚆矢とするのか。
また、第2作『ハレーション・ゴースト』は、生徒主体の文化祭についての物語で、米澤穂信『クドリャフカの順番』と並ぶ文化祭小説としても、とても愛しい。
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