毎日読書メモ(28)『オリンピックの身代金』(奥田英朗)
奥田英朗『オリンピックの身代金』(上下・講談社文庫)
上巻:読書会をやることになって読んだ。面白かった。東大で経済学を学ぶ島崎国男が、建設現場で働いていた兄の事故死をきっかけに変わる。オリンピック開催間近の昭和39年夏の東京。この小説の主人公は島崎ではなく、昭和39年という時代そのものだと思った。突貫工事で作られる競技場、モノレール、開通したての新幹線。輝かしい都市開発の裏で激しい貧富の差、生活格差が存在し、当時成人していた人は皆、戦争の陰を引きずっている。自分が生まれた頃はまだまだ「戦後」だったのだな、と実感。
下巻:上巻ではまだ明示されていなかった、爆破事件の実行犯が断定され、警察と犯人との追いかけっこの物語となっていく。犯人の勘のよさだけで、こんなに最後まで逃げ回れるのかよ、というご都合主義的な展開もあるが、明治記念館の風呂敷を使った身代金の受け渡し、とか、昭和39年という世相を使った小道具がよく考えられている。警察内での捜査一課と公安の対決とか(これは現代の警察ものでもみかける構造ですね)、犯罪本体だけだったらこんなに長くならない物語が、退屈せずにこれだけ拡張させられるのがすごい。犯人の動機の弱さだけが惜しい。
(2016年2月)