毎日読書メモ(116)『アフリカ出身サコ学長、日本を語る』(ウスビ・サコ)
ウスビ・サコ『アフリカ出身サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)を読んだ。2018年から京都精華大学の学長を務めている、マリ共和国出身のウスビ・サコによる日本人論。2020年7月刊行なので、大学のコロナ対策等についても触れられている。コロナ禍の元でのBlack Lives Matterの問題についても触れている。
京都精華大学といえば、初めてマンガ学部を作ったことで有名になり、マンガ学部の教授→学部長となった竹宮惠子が学長となったことでも知られているが、竹宮惠子の次に学長になったのがウスビ・サコ。専門は建築学で、社会と建築空間の関係性について様々な角度から調査研究している。マリ共和国はフランス植民地から独立した国で、幼少時より、フランス語教育を受け、現地語とのバイリンガル、名門高校で好成績をおさめ、海外への留学を想定していたサコ少年が学校で指定された留学先は、予想もしていなかった中華人民共和国だった(中国はアフリカ外交に熱心で、給付型奨学金も出している)。1年間中国語を学ぶ大学に通った後、建築学を学ぶ大学に進み、引き続き大学院へ。中国留学中に日本人留学生とも知り合い、また、日本に旅行したのをきっかけに、日本への留学を志す(天安門事件前後の中国政府の強権的な様子に恐怖を覚えたのも要因となっている模様)。日本でも、僅か半年日本語学校に通っただけで京都大学大学院に進学。語学学習の天才なのだろう。この本も、フリーライターがある程度手を入れてはいるようだが、自分自身の日本語での主張がそのまま書かれている。何かおかしいと感じることがあると「なんでやねん!」という突っ込みが入ってくるところに、関西に上陸した外国人の姿が見えて笑ってしまう。
勿論、ただ語学が出来るだけではなく、研究を進め、多くの学生を指導し、マリと中国と日本での生活を元に、比較文化論的な見識も高く持っている。国際交流と在住外国人支援に取り組むボランティア組織を立ち上げ、運営し、大学や研究分野以外の人との交流も多く持っている。八面六臂。
来日して30年、様々な日本人と接し、大学という組織で働き、抱いてきた違和感を、この本の中で整理して語っている。日本人は、共通のレールの上に乗って、同じように行動し同じようなゴールを目指すのがよし、としがちだが、一人一人目指すものが違うのに、同じ型にはめようとして、教育もそのためにあるかのようになっていることに異を唱える。
京都精華大学では、真の意味での「共生」に、価値を置きたいと思っている。では、真の共生とは何か。それは決して、みんなが同化するということではない。みんながマクドナルド化されるということでもない。それぞれが自分の価値観を持ったまま、お互いに協調していける道を探っていくことだと、私は思う。(p.121)
一生懸命学校に行かせるのではなく、むしろ一生懸命学校をやめさせようとする。なぜかというと、マリでは多くの人が、学校以外に人間形成の場があるということを知っているからだ。マリで育ってきた私は、この日本との価値観の違いを肌で感じ、教育とは何か、ということをいつも考えている。(p.199)
何かを究めないと、本物ではない、というような価値観によって、日本人は視野を狭めてしまっているのではないか、という指摘もあり、解説の内田樹はそこに大きく賛同している。日本人にはだらだらが足りないらしい。外から来た人に言われないと、わたしたちはそんなことにも気づけないのか。
いつか、サコ先生の講演とか聞いてみたいなぁ。