毎日読書メモ(76)『この女』(森絵都)
しばらく前に、森絵都『カザアナ』(朝日新聞出版)の感想を書いた(こちら)。その時にタイトルだけ言及した『この女』(当時は筑摩書房、現在は文春文庫、いやそれも版元品切れか?)の感想文を発掘したのであげてみる。
最初に、書き手の状況が書かれているので、この小説が阪神大震災の前で終わることがわかっていて読む。1994年〜1995年1月の世相。その時代の空気。ヒロイン結子のアクの強さはさほど感じられないが、嘘ばかり語る女に翻弄されず、小説を書き進める礼司の強さがじわじわと身に迫る。何故彼は一気呵成に語られたモノローグを忠実に記憶出来るのか、そこから「この男」の物語が始まっている。読み終えて、最初の部分に戻り、もう一人の大切な登場人物の「現在」に気づく。これもまた「この人」の物語であったのだ。(2013年2月)