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原田ひ香『ランチ酒 今日もまんぷく』(毎日読書メモ(392))

原田ひ香『ランチ酒 今日もまんぷく』(祥伝社)を読んだ。『ランチ酒
ランチ酒 おかわり日和』に続く、シリーズ第三作。見守り屋として、夜~朝、クライアントの家を訪れ、家事でも介護でも保育でもなく、ただ寝ずの番をする、犬森祥子が、仕事明け、帰宅して寝る前に、仕事場の近くで美味しそうな食事を提供する店を見つけ、食事を堪能し、あわせて、その食事に合った酒を少量、くいっと飲む。
クライアントは移り変わる。何回も依頼してくる人、一度だけの人、昔よく頼まれていたが最近状況が変わってお呼びでなくなった人。社長の亀山の関連できなくさい話が舞い込み、それで面倒なことに巻き込まれかけたりもする。
離婚した夫と夫に引き取られた娘、夫の再婚相手、自分の交際相手、と、祥子自身の人間関係も緩やかに変化していく。シリーズ3作目だが、一応物語の中で前提や状況の説明は入り、うっかりこの本から読んでも展開は見えるようにしているが(わたしがうっかり第2作を第1作の前に読んでしまった時もなんとかなったように)やっぱり順を追って、祥子の葛藤を追った方が読みやすいかな。

小説は祥子の生活を追ってはいない。仕事明けとか付き合いのある人との食事とかで美味しそうなものを食べるところ、だけクローズアップしている。仕事のたびに外食して外飲みしている訳ではなく、家で料理もしているのだろうが、住まいの中のことは殆ど描写されない。この間『三人屋』の感想を書いたとき(ここ)に、作中で描かれる食べものが魅力的なのに、物語自体は「美味しいもの食べてりゃみなハッピーでしょ」って展開になっていないところが興味深い、と書いたが、考えてみればこのシリーズも、丁寧に考えられ作られたメニューの見事さと、それに合うと思って注文したお酒のマリアージュを魅力的に描き、それが主人公の生活の中で宝石のようにきらめくさまを丁寧に描きつつも、食べて飲むだけで悩みは解決しない、ということもまた波が寄せては引くように繰り返し描かれ、その中で道を切り開こうと進む力は、きらめきを蓄積してきた自分の中から湧き出てくるのだ、と教えてくれている気がする。

このシリーズはこの3作目でとりあえず完結する模様で、祥子は新しい道へと歩みだそうとしているが、新境地はまた、別の小説世界への扉となるだろうか。その世界でも祥子は美味しくランチ酒を飲んでいるかな。
作品が発表されたタイミングはすでにコロナ禍に入った時期だが、もし、祥子の進む道の前にパンデミックが立ちはだかれば、それはまた全く別の物語になるのか。

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