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『みんなのなつかしい一冊』(毎日読書メモ(511))

先日の『校閲至極』に続き、毎日新聞社から来たDMで、存在を知った本。
池澤夏樹編、寄藤文平絵『みんなのなつかしい一冊』(毎日新聞出版)。毎日新聞に毎週土曜日に連載されている「今週の本棚」という企画をまとめたもの(企画・池澤夏樹)で、これまでに『わたしのなつかしい一冊』、『あなたのなつかしい一冊』が刊行されていて、この『みんなのなつかしい一冊』は三作目。

なつかしい本、ってなんだろう。自分の中でその「なつかしさ」を定義するところから本選びが始まっている。
子どもの頃に繰り返し読んだ本を選んでいる人もいれば、青春時代に自分の進路を考えているときに大きな影響を受けた本を選んでいる人もいる。一度しか読んでいないけれど、それを読んだ記憶自体が鮮烈で大事、という場合もあれば、ことあるごとに手にとって、参照する本ということもあるだろう。
色んな分野で活躍されている方々の選んだ「なつかしい一冊」を読んでいて、その中にはわたしも読んだ本もそこそこ含まれているが(といっても50人のセレクションが収録されているうち16冊かな)、じゃあ、わたしが「なつかしい一冊」に選ぶのは何の本だろう、と思うとちょっと途方に暮れる。これぞ、という一冊を選ぶというのは難しい(今読んでいる本、とか、今年一番面白かった本、くらいなら選べそうだが、生涯のベストとか、忘れられない本とか、一冊なんて選べないよなー)。

毎日新聞出版のサイトに行くと、誰がどの本を選んだか、という一覧は出ているので、ここには挙げない。50人のセレクションを便宜的に(?)3つのジャンルに分けているのでその章名だけ書いておく。
わたしのなつかしい一冊』物語が教えてくれた/道に迷ったときに/世界をみつめる
あなたのなつかしい一冊』この本から始まった/大人になるってどんなこと?/明日を生きる道しるべ
みんなのなつかしい一冊』〈わたし〉を知る/〈あなた〉に出会う/〈みんな〉と生きる

ある程度恣意的なものが入っているのか、この3冊の中で取り上げられた合計150冊の中にダブりはない。でも、何人か、複数の人に選ばれている著者はいて、ああ、これは確かになつかしい本の書き手だな、と思って、北杜夫、星新一、筒井康隆等の名前を見る。ドストエフスキーも複数名に選ばれていたがあれ、トルストイを選んだ人はいないのね、とか、あと、夏目漱石が選ばれていないのも不思議な感じ。あ、宮沢賢治もいない…この辺、わたしが「なつかしい一冊」を選ぶときに有力候補になりそうなのに。アガサ・クリスティ、エーリヒ・ケストナーも複数名。なつかしさがキーワードなので、子どもの頃に親が買ってくれた名作文学全集に収められてそうな本が多く、その辺はわたしも読んだー、と一緒になつかしさを辿る。
絵本を選んだ人も、漫画を選んだ人もいる。
初めて聞いた、という本も勿論あり、そういうのも気になる。

3冊とも寄藤文平さんが絵を描いている。本を紹介する本に絵はいるのか?、と思って読み始めたが、先に目次で本のタイトルを見てから、この本にはどんな絵をつけるんだ?、と思ってページを開くのが意外と面白かった。書き手が実際に読んだ本の装丁をアレンジしたイラストが大半で、その本の絵にもなつかしさが漂っていた。

次々と紹介される本を眺め、なつかしさについて考える。『みんなのなつかしい一冊』の中では、なつかしい一冊を選んでいる書き手の人が書いた著作を別の人が「なつかしい一冊」として挙げている事例もあり、世代とか、生まれ育った環境によっても、懐かしさは様々だな、という思いになる。
振り返ることのやさしさ、様々な感情の発動についても考えるきっかけとなった。


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