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毎日読書メモ(147)『いやよいやよも旅のうち』(北大路公子)

生きていてもいいかしら日記』を読んで抱腹絶倒した北大路公子、もっと読んでみようと思って、今度は『いやよいやよも旅のうち』(集英社文庫)を読んでみる。「小説すばる」に連載されていた紀行文らしい。『生きていてもいいかしら日記』を読む限り、自宅でビール飲んでいるのが一番幸せ、と思っているらしい作者がそんなに旅行好きとは思えない。と思って読み始めたら本当にその通りで、編集者に連れ出されて日本各地を旅しているが、全然楽しもうとしていない。小気味いいまでの嫌がりっぷりである。

この表紙の作者像からして、しょんぼりしているではないか。本の中にも、本文の上4分の1くらい、イラストを入れるスペースが設けられていて、丹下京子さんが、旅行の様子を描いている。風合いがちょっと安西水丸に似ている、と思って、ご本人のお仕事サイトを見たら、すごく雰囲気の似ている作品もあった。丹下さんは、一部の旅は一緒に行っているが、行ってない旅のイラストも、臨場感あふれる北大路さんの嫌がりっぷりを表現している。ただ、細かい字でキャプションが入っていて、R眼進んできたわたしにはちょっと辛かった...北大路さんもわたしと同世代だから結構辛いと思うよ。

旅を嫌がる北大路さんを懐柔するように、旅はご本人の地元北海道から始め(キミコの知らない世界in札幌)、山梨(ここはどこ? 山梨ミステリーツアー)、岩手(めくるめく岩手ファンタジー)、三重(神様お願い! お伊勢参りパニック)、香川(食べて登ってよれよれ讃岐アタック)、沖縄(こんなに生きたくない沖縄ってある!?)、それぞれ2泊ずつくらいの旅行を5-6回に分けて連載している。どこへ行っても宿の部屋でごろごろしてビール飲んでたい、としか言わない北大路さんに、担当編集の元祖K嬢が次々とハードルの高い体験企画を提案し、むりくり実現していく。

一部紹介すると、犬ぞりに乗ったり、アルパカの世話をしたり、富士急ハイランドではドドンパが休みだったのでFUJIYAMAに乗り(所要時間50分の恐怖のお化け屋敷だけは全力で回避)、青木ヶ原樹海を探索する。5分先のコンビニに行くのさえ車で行く生活の中、何十年も乗ることのなかった自転車に乗らされ(全力で嫌がっている様子がすごい)、わんこそばを食べる。甘いものに興味ないのに赤福を食べ、写経をする。高松平家物語歴史館という施設で蝋人形に恐怖し(その後閉館してしまったそうで、体験できずちょっと残念...かな?)、金毘羅さんではいやだいやだと言いながら785段の階段を上って本宮に参る(1368段ある、奥社までは勘弁させてもらう)。沖縄ではいやだいやだと唱えながらシュノーケリングを体験し、セグウェイに乗る。いやだいやだしか言ってなくて、ずっと愚痴っているのに、はたから見ているとすごく面白そう、という不思議さ。抗議をしてもしても、ばっさり切り捨てていく元祖K嬢の情け容赦なさに笑い、しかし、「『いやよ旅』では雪も雨も降らせません」と言い切った元祖K嬢の宣言通り、連載の最終日まで雨雪は降らず、ひとつとして、気候が理由で中止になった企画はなかった強運(キミコにとっては不運)。キミコ的視点では無謀な企画に見えるが、道中何の事故もなく、すべての旅行が無事終わっているし。

そうねぇ、読んだからその場所に行ってみたくなる、という旅行記ではなかったが、自分が行ったことのある場所については、こういう旅の仕方もあるのか、と目を開かされたし、人がどういう気持ちで景勝を眺めたり、色々な体験をしたりする可能性があるのか、ということを、新鮮な気持ちで知ることが出来た。半径5メートル以内が幸せ、みたいな北大路さんの筆力に感銘を受け、大笑いした1冊だった。

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