毎日読書メモ(110)『花や今宵の』(藤谷治)
しばらく前に、『睦家四姉妹図』を愉しく読んだ(ここ)、藤谷治の2016年の小説『花や今宵の』(講談社)を読む。「小説現代」に連載されていた小説を単行本化したもの。アイスグリーンのイラストの表紙(re° red flagship)が冬至の山の寒さを象徴している感じか。
平家の落人伝説のある山奥の村。不思議なエネルギーを放出する村の中の小山で神隠しにあった少女。その場にいたことで運命が変わってしまった主人公の少年と、消えた少女の父親は、少年(もう少年って年じゃないが)の友人和田ラーメン(最後に主役以上に格好いいシーンが出てくるぞ)を伴い、19年目の同じ日にその山に向かう。そこは平忠度(清盛の弟で一の谷で討死)の辞世の和歌「行き暮れて木の下かげを宿とせば花やこよひのあるじならまし」の舞台だったのか。幻想的な桜の光景の中でバートランド・ラッセルの懐疑論とか、パラレルワールドとか、様々な仮説が提示され、そこまでの19年間の陰鬱な心象風景が一気に振り払われる。
牽強付会やよし。平忠度の和歌の解釈から始まって、英彦山だのルーマニアのホィア・バキューの森だの、神隠しに関する様々なTipsが披露され、少女が戻ってくるシーンを期待しつつ読み進める。不思議な結末だが、ワクワク感をきちんと保持できた、緊張感に満ちた小説だった。
そして、美味しい塩バターラーメンが食べたくなる。食欲の出る小説はいい小説だ。
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