小屋カレンダー2024
こんにちは。
畑や田んぼ、漁港の片隅に建っている小屋の写真を撮っては、こちらに記事を書いています。これといって役には立ちませんが、よろしければお立ち寄りください。
さて、今年も「小屋カレンダー」を作りました。
2022年10月から2023年10月までのおよそ1年間で撮影した中から選りすぐりの小屋を、1月から12月まで12棟(プラス表紙の1棟)並べました。
せっかくなので、一月ずつ紹介していきます。
霞ヶ浦の湖上に建つ小屋です。ここでは食用鯉の養殖が行われており、小屋の水面下にはその生簀があります。湖岸で釣り糸を垂れていた男性によれば、建物の中には鯉の餌や漁具、給餌の道具などが収納されているそうです。小屋へと続く桟橋は鉄板の足場板が敷かれているだけ。もし私がその上を歩いて餌袋や漁具の持ち運びするとしたら・・・、どう考えても途中で空中ダイビング。小屋までたどり着ける自信がありません。茨城県。
漁港に建っていた小屋です。全体像は見えませんが、防潮堤をそのまま小屋の壁として使っているユニークな作りです。向こうに回って覗いてみると、壁は防潮堤の面だけで、ほかの3面は風の吹き抜けるままになっていました。
この漁港は湾奥にあるので、普段から海が穏やかなのでしょう。住宅が海の目と鼻の先に並んでいます。そのうちの一軒は掃出しのガラス戸が全開で、居間が丸見えでした。縁に座ってくつろいでいた男性が私に「何を撮っているんだ?」と話しかけてきました。小屋を撮っていますと答えると笑いながら、この集落や海で取れる魚介類のことをざっくばらんに教えてくれました。
目の前の海のように穏やかで風通しのよいお人柄。人も家並みも小屋も、ここの気候風土に育くまれているのだなと感じました。和歌山県。
ひとけのない昼下がり、下北半島の漁港をカメラ片手に歩いていたときのこと。小屋の壁に商店の古い広告看板を見つけました。お店の住所を見ると対岸の函館市。なるほど、ここには地図に載っていない海上の道があるのですね。車社会が到来する以前、この地域では青森市に出るよりも北海道の方が近くて行きやすかったことが伝わってきます。
本州の端と聞くと、それだけで不便そうと思い込んでしまいますが、ここの人たちは案外とそうは思っていないかもしれません。
小屋が長屋のように連なっている港の一角は思わず迷い込みたくなる魅力がありました。青森県。
4月は新年度ですので明るい色調がいいなと思い、この小屋を選びました。塗った時期の違いや刷毛ムラのおかげだと思うのですが、同じ色でも濃淡が違って、良い味が出ています。トタンならではの経年変化に黄色のコンパネが加わり、見る人の目を楽しませてくれます。配色の妙は所有者のセンスでしょうか。神奈川県。
港に係留する漁船は海上に浮かんだたままなのが一般的ですが、浜に引き揚げているケースもあります。主に日本海側の小さな漁港で見られる風景です。昔は(といっても半世紀ほど前までですが)人力で浜辺に船を巻き揚げていました。漁を終え疲れて帰ってきた漁師にとっては重労働で、家族や漁師仲間で助け合う仕事だったそうです。現在はモーターやエンジン付きのウィンチがさっと船を引き上げてくれます。写真の小屋にはおそらく漁具や工具などが収納されていると思われます。大工さんまたは漁師さん自らが建てるのでしょうが、ひとつひとつ違う形状が風景を豊かにしてくれています。山形県。
淡路島はタマネギの産地ですが、収穫後しばらくの間は乾燥させるためにヒモで縛って吊るし掛けにします。そのため6月から7月にかけてタマネギでぱんぱんに膨らんだ小屋を見ることができます。乾燥が終わりタマネギが外されると、壁のない小屋は翌年の収穫期まで風が通るままの空っぽ状態になります。使われている時期とそうでない時期で、これほどまでに様子の違う小屋も珍しいのではないでしょうか。近年は自然乾燥ではなく、タマネギをコンテナに入れて扇風機で乾燥させるのが主流になりました。写真のようなタマネギ小屋の活躍している風景は徐々に減りつつあります。兵庫県。
バス停の待合所も、畑や漁港の小屋に負けないくらい味わい深いものがあります。利用者の多い中心市街地の待合所はバス会社が設置します。作りはしっかりしていますが、形はどれも同じで面白味がありません。多雪地帯や海沿い、郊外の路線では、バス停周辺の町内会が道路占用許可を取って自前で建てることが多いそうです。なので、車を走らせていると姿形のユニークな待合所が次々に現れることもあります。写真は「背景は海と空だけ!」という最高のロケーションの中に建っていた待合所です。山形県。
小屋は常にあるものとは限りません。写真は、お盆期間中に先祖の霊を迎え、送るため一年のうち4日間だけ建つ小屋です。お盆初日に町内会の有志が海岸に集まって稲わらなどを使って建てます。そして陽の沈んだ夕暮れどきにその傍で迎え火を焚き、海から帰ってきた先祖の霊を迎えます。お盆最終日には小屋そのものを燃やして送り火とし、先祖の霊が海へと帰っていくのを見送ります。黄昏どきの海岸に近所の人々が自然と集まり、子どもたちが霊を迎え送る歌を歌います。それはとても幻想的な光景で、小屋がまるであの世とこの世をつないでいるかのようでした。秋田県。
その土地によって、小屋の色使いは様々です。例えば関東ではおそらく青いトタンがシェアNo.1です(きちんと統計をとったことはありませんが)。ところが西日本に行くとほとんど見かけません。トタンメーカーの方も「青いトタンは西日本では売れないので販売していない」とおっしゃっいます。先日福岡県に行った際に地元の方に尋ねたところ、福岡では銀色か赤が多いのではないかと教えてくれました。東北地方に行くと黄色いコンクリート型枠パネルを使った小屋をチラホラと見かけます。全国どこのホームセンターでも手に入る建材ですが、他地域で使われているのをあまり見かけません。小屋を建てる際には、丈夫で維持の楽な建材の中から好きな色や風景に馴染む色を選んでいるのでしょうが、こんなところにも地域の特色が出てくるのが興味深いところです。山形県。
知人から「丹波篠山市で小屋をたくさん見かけました。ぜひ行くべきです!」という熱い報告を受け、足を運びました。まだ化学肥料のなかった時代に、この地域の農家は分厚い土壁の小屋の中に稲わらや下草、雑木の枝葉などを積み、ゆっくりと燻らせて灰にし、それを田畑に撒きました。写真の小屋の右半分が、それにあたります。地元では「灰小屋」「灰屋」と言い、人によっては「灰屋」を「はんや」と呼びます。現在では農家が灰を作る必要はなくなり、小屋のほとんどが取り壊されてしまいました。それでも物置として活躍している小屋が、今もわずかながら残っています。兵庫県。
海岸沿いに建つコンブ漁の小屋。写真下の地面にはコンブが干されているのがチラッと写っています。地面は砂地ではなく砂利と大粒の石が敷かれ、水はけと風通しのよいように人の手が入っています。また小屋の中にもコンブが吊るされています。小屋の左下に置いてある長い棒はおそらく海中のコンブを巻き取る竿、扉が閉まらないようにつっかえ棒として立て掛けてある角材は、扉を閉めるためのかんぬき棒と推測できます。ヤカンとバケツの置いてある木材は小屋に上がる踏み台と休憩用のベンチの二つの役割が果たしていそうです。その木材を下で支えているのは、物干し台のコンクリート土台。小屋の右奥には住宅が建っているのが分かります。小屋の右脇の小道を通って漁師が自宅と小屋の間を行き来している姿も想像できます。小屋の細部を眺めていると、写真には写っていないにもかかわらず、働いている人の動きを想像できて、なかなか楽しいです。青森県。
写真をパッと見ても、この場所が何なのか分かりづらいですが、ここはレンコン畑です。小屋の中にはプラスチック製の四角いコンテナボックスが無造作に重ね置きされていました。おそらくは、掘り起こしたレンコンをここで水洗いするのではないかと推測できます。冬晴れの空の下、冷たい風が水面を吹き抜けていきます。来年の春が待ち遠しく感じられます。茨城県
(了)
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