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つれづれ!『光る君へ』第9回

今週もオリジナルストーリーな『光る君へ』…
お話としては、花山天皇が兼道を信じ、安倍晴明と兼家パパはやっぱり結託していて、お兄さん道隆はおののいて、詮子はマジびびり、道長は「自分のせいでひとがしぬ」という体験をし、まひろはまたもや父為時に「お前が男ならなあ」と言われ、実資は妻に日記を書けと言われ、そういえば女衒を求められていましたね。それにしても、帝に女御をお世話するのは蔵人頭の仕事じゃないと思うの…
そして、直秀のあっけない最期。
道長とまひろが直接(下男を通して)連絡が取れるようになった今、直秀、いらない子だもんね…とはいえ、越前に行かせてやれよ…と思ったのでした。
直秀は没落貴族の子で兼家に恨みがある、とか思っていたのにまったくあっさり。

さて、そんな直秀たちが連れて行かれた「鳥辺野」ですが、これは葬送の地として有名で、なくなった人を悼む時、「鳥辺野の煙」なんてよく歌に描かれます。ちなみに平安時代、亡くなった人を供養するために立派なお墓を作る、という思想はなくて、道長だって割と適当な感じに弔われています。(今見に行くとびっくりするぐらいですよ)ちなみに基本的には風葬です。平民の亡骸河原とかに放置でした…

『源氏物語』にも鳥辺野は描かれています。
有名なのは夕顔の話。
ご存じのように源氏は夕顔を伴って荒れ果てた屋敷に行くんですよね。ふたりきり(とはいえおつきの女房はもちろんいるし、源氏にも従者がいるのでほんとに二人ではないですよ)になりたい的な感じでしたが、夜中もののけが現れて夕顔を取り殺そうとする。人を呼びに行っているあいだに夕顔は命を落としたのでした。という話で、このあと、源氏はどうしたものかと困ってしまうわけです。そこでこういう時に頼りになる惟光(乳兄弟ですね)を呼び出した。普段側にいるのに、惟光はこの日に限ってどっかに出かけてしまったわけです。探しに行くように下人たちいいうがさっぱり見つからない。そうこうしているうちに朝が来て、惟光が迎えに来たのでした。まだ二人とも17歳くらいの時です。ふたりとも茫然自失。東山に尼になった父の乳母がいる!とどうにか惟光が思い出して、そこに夕顔を運び入れ回復を願ったのでした。(しんだ!と思っても回復することがままある。そして、東山というのは鳥辺野のちょっと手前。イメージでいえばこの世とあの世の間って感じですね)
願いもむなしく回復はせず、ケガレてしまった源氏は出仕もできず、そのことを人にもいえず、帝は激怒なのにバレバレのウソをついて二条の邸(源氏はおばあちゃんちを受け継いでいます)に引きこもるしかない。そして東山に夕顔を運び込んだ惟光を待つ。もどってきた惟光がやっぱり難しかった。ということで源氏はケガレてしまうにも関わらず馬に乗って(惟光に馬を曳かせて)東山の尼の庵に向かうのでした。なくなった夕顔の手をとりおいおい泣いて、ふらふらしながら邸に帰り、ケガレが明けるのを待つのでした。
夕顔と源氏は、ナンパがきっかけの戯れの恋から始まりましたから、お互いの素性を知らなかったんです。だから亡くなった後で娘がいることやその父親が頭中将であることを確認しています。
そんな源氏が夕顔を思って詠んだ歌がこちらです。

「見し人の煙を雲と眺むれば夕べの空もむつましきかな」

見し人、とは恋した相手ってことですね。見るというのはもう恋人になるってことなんで。あの人を焼いた煙があの雲だと思って眺めたら夕方の空も親しみをもって眺められることよ、といった感じの意味ですかね。

このように「煙」=鳥辺野にいる人(亡くなった人を想う)という歌は他にもあります。葵は源氏の正妻で、子ども(夕霧)を産んだ後、みんなが安心した瞬間になくなってしまいました。なんにちもして、これは無理だ、となって鳥辺野に送ることになりました。夕顔の件から一年ほど後でした。

「のぼりぬる煙はそれとわかねどもなべて雲居のあはれなるかな」

鳥辺野で立ち上る煙は雲とまじりあって、空を見てもどれがその煙かわからないけれど、その空に広がる雲のすべてがしみじみ思われるものだ」
という感じですかね。
こんなふうに人の命のはかなさは鳥辺野の煙、としてうたわれていくわけです。
人を悼んで泣き歌を詠む習慣は万葉の昔からありました。
万葉集では「挽歌」として残されています。まだ仏教の影響がそれほどなかったので、歌を詠んで亡くなった人を弔っていたんです。
柿本人麻呂が宮廷歌人として詠んだ歌が多く残っていますね。
ひとつだけご紹介します。

草壁皇子(持統天皇が後継にしたいと思っていた皇子)の殯宮に際して詠んだ歌の反歌がこちら。

「あかねさす日は照らせれどぬば玉の夜渡る月の隠らく惜しも」

日は照らしているけれど、夜空を渡る月のように皇子がお隠れになったことが惜しいこと。みたいな意味ですね。さすが和歌の神…といった歌ですね!!

そういえば、花山帝は「忯子,忯子」と言っていました。切ない。
今は忯子一筋ですが、なにせこの後長いからね…いろいろあるよね…
来週は、いよいよ花山帝の出家だ…
『大鏡」の語り口が既に物語要素満点なので、どのように描かれるか楽しみですね!!
ではまた!


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