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白河出入国在留管理局勿来出張所にて「スリーパーセル」発言を再考する。

「実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されても、スリーパーセルと言われて、もう指導者が死んだっていうのがわかったら、もう一切外部との連絡を断って都市で動き始める、スリーパーセルっていうのが活動すると言われているんですよ」
「テロリスト分子がいるわけですよ。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今ちょっと大阪ヤバいって言われていて」

フジテレビ『ワイドナショー』2018年2月11日放送分
(文字起こしは https://bunshun.jp/articles/-/6259 より)


ほぼ5年前の話ではあるが、「国際政治学者」の肩書付きでここ10年近くマスメディアに出ずっぱりな三浦瑠麗氏が上記のようにテレビ番組にて発言し、「在日朝鮮人・韓国人に対する差別を助長しかねない」などと批判されて炎上した件を読者各位は覚えていらっしゃるだろうか。ここではあえてこの発言を意地悪く蒸し返しつつ、筆者なりに彼女の言わんとしていたことを妄想混じりに補足していきたい。

国民国家(nation states; état-nations)においては、詳細な概念や定義などのin vitroな原理については専門書が今日に至るまで玉石混淆でわんさか出ているので割愛するとして、in vivoな実際の国家運営の場では必然的に「その国の国籍を持つ者」たち、すなわち国民のみが相互に理解し信頼すること、そして彼らのみに庇護を政府が与えることを前提に運営されてきた。加えて、これは各国の事情において変化こそあれど、こうした庇護の対象には単純に上述のまま「その国の国籍を持つ者」から「その国で最大多数となる民族的/宗教的集団に帰属する者」や「その国の支配者層の属する民族的集団にルーツを持つ者」などまで様々な条件が付加されてきている。
上記に関連して(話は逸れるが)、三浦氏は表題の発言から1年半ほど前にも蓮舫氏(当時民進党所属)の「二重国籍」を巡る騒動に際し、自身の夫君の出自にまつわるエピソードを交えながら児童文学『ハリー・ポッター』シリーズに登場するホグワーツ校の寮と主人公ハリーの母リリーを例えに出して説明を試みようとした。(大まかな流れは下記ツイートのスレッドを参照)

が、いつものことではあるが法華狼氏ら(下記参照)を始め諸々から「意味不明」などと批判されている。

無論、三浦氏はスリザリン寮を「性格悪い」とのみ一面的に評しているため、原作や映画などの物語を理解していないのは明らかである(詳細はネタバレのため割愛)。しかしこちらも発言を補足すれば、彼女なりの理解でグリフィンドール寮をリリーや同じく登場人物のハーマイオニーのようなマグル(魔法使いの血筋ではない人間)でも活躍できる「(北米や西欧などを念頭に置いた)国籍さえあれば既存のマジョリティ集団とは異質の出自でも活躍できるインクルーシブな国家」、スリザリン寮をjus sanguinisが前提の「(日本などの)排他的な純血主義国家」と説明したかったのだろう。

だが、その「庇護を受ける国民」の条件から外れた人々、すなわち「外国人」や異民族らはどう扱われるのだろうか。外側から他国に扇動されて国家に揺さぶりをかける存在か(まさに「スリーパーセル」!)、内側から国家の体制を揺るがす存在か、いずれにせよ「潜在的脅威」として扱われるのが常である。もちろん、国民国家以前にもゼノフォビア(外国人嫌い-異民族嫌悪)はどの時代や地域にもあったし、現代も国家の枠組みを問わずとも、小さな田舎町のような集団でも部外者を住民が命懸けで排除することはよくあるだろう。それを前提にした上でも、排外主義はあらゆる国民国家では必然的に官民を問わず発生するのだ。だからこそ移民・難民含め「外国人」を巡る問題はどの国でも「難問」扱いされる-「問題としては認識しているけど我々政府としても解決する気力はないし、そもそも手立てなんてハナからありません。これは膏肓に入った病ですよ」という風に扱われるものだ。つまり、各国政府はその国の構成員ではない外国人に対して生存権を申し訳程度に保障したところで、当の彼らがいつつけあがってその国の国民と同等かそれ以上の権利を要求してくるかわからない、ひいてはその国の内憂か外患のどちらになるリスクさえある存在として扱わざるを得ない、けれどもその生存権だけでも保証してやらねば「人道に反する」という非難を受ける-そういう排除と包括の矛盾を抱えながら各国は外国人を扱わねばならないのである。
その如実な例が、各国の入国管理局(入管; イミグレ)である。国籍問わず巷のバックパッカーの間では「訪問先のイミグレの役人を見ればその国の国民性がわかる」と言われているとかだが、多かれ少なかれ各国の入管は「国民国家の暴力装置」と言われんばかりの人権侵害を行っている。下記ブログのように「日本の入管は世界一有色人種を差別しない」という言説もあるが、そんなことは2021年のウィシュマ・サンダマリさん死亡事案発覚以来日本国民でも真っ赤な嘘だとやっとわかるレベルだろう。

とはいえ、日本に限らずどこの国の入管も人権侵害をしていることは覚えておきたい。一部の日本人や英国人らが「日本より外国人などマイノリティや弱者ら人権への配慮が進んでいる」と礼賛する英国でさえ、2007年に祖国にいれば生命の危機に晒されることになっていたイラン人難民のペガハ・エマムバフシュさんを強制送還しかけていたという過去があるのだ。(とはいえ、こういうこと言うと「ほら欧米にも瑕疵があるじゃないか、出羽守ざまぁww」と茶々を入れる輩が出てくるので頭が痛くなるが)

相変わらず話が右往左往したが、結論。
三浦氏は「スリーパーセル」発言をした際、上記のような「日本を含め国民国家では、外国人、特にその国と敵対する関係にある国の国民やそこにルーツを持つ者は、外患誘致や内部から国家の分断を引き起こす脅威として扱われやすい。在日朝鮮人もまた、そうした隠れた脅威分子(スリーパーセル)として見られることもある。少なくとも私(三浦氏)自身は大阪のことはよくわからないけど、なんかあなたたち在日の方々のことをそうしたヤバい脅威として扱っているから、日本で差別されてもそういう扱いに甘んじてちょうだいね<3」という説明が不足していたのではないかと筆者は邪推している。無論、彼女の発言の意図が左記でないにせよ、当方には彼女のこの発言を擁護する義理はないし、そもそも彼女や他人が「私国際政治のことはよくわからないんで」と抜かすイチ雛壇芸人であってもこれはあるまじき発言なので、擁護の余地なくキャンセルされるべきものではあるが。

*タイトルの一部は彼女が私淑していた誰かさんがロシアのプーチン大統領との交渉を進めていたとしたらできたであろう役所の名前です。札幌入管?仙台入管?まぁ、土地と住民ごと彼の国に明け渡していたでしょうねw

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