WEBINAR〜デザインドリブンイノベーションのによる意味の創造
* この記事はアアルト大学IDBM(International Design Business Management)学科のIDBM GLOBAL CAPSTONEコースにて、 Design-Driven Innovationに関する文献調査とインタビューを実施し、他の学生と先生に30分のWebinarを行った時のスライドとナラティブを共有するものです。
デザインドリブンイノベーションと聞いて何を連想をしますでしょうか?
イノベーションを創造する経験を積んできたデザイナーの皆さんに、なぜ、改めて、「デザインドリブンイノベーション」についてお伝えする必要があるのでしょうか?
「マーケット?どのマーケットのことだい?我々はマーケットのニーズは見ないよ、我々は人々に提案をしているんだ。」(Verganti 2008)
「私の知る限り、全ての急進的なイノベーションはデザインリサーチを行わず生み出されていた。急進的なイノベーションは技術発展もしくは「意味」の変化によってのみもたらされるかもしれない。」(Don Norman 2013)
どうやら我々が学んできた、ユーザーリサーチから始まるデザイン思考とはまた異なるアプローチが必要なのではないか? という問いが生まれます。
デザインドリブンイノベーションは"意味"のイノベーションと呼ばれます。
「社会と技術の急激な変化は、我々の人生の"意味”を見失わせている、人々は彼らの生活にとって何が"意義深い"のか分かっていない。かつては、変化が少なく、組織が安定していたため、歳をとるにつれて自然と答えが見つかった。」(選択のパラドックスより)
今の時代、みんな生きる意味を求めている、再定義しようとしているのかもしれません。"意味"の需要を測ることはできないけど、人々に"意味"を提案することが求められているのではないでしょうか?
WEBINARの構成は、1. デザインドリブンイノベーションとは?2. どうやって?実現するの?3. フィランドのデザイナーさんとのインタビュー紹介の3本立てです。
あらかじめお伝えすると、この分野は議論が続いており、正解を提示するのではなく、一緒に考えていこうと思います。
デザインドリブンイノベーションとは、「人々はただ製品やサービスを買うのではなく、体験を通した"意味"を買うのだという観察に基づき、製品やサービスの新しい意味を創造するイノベーション戦略」のことです。
左上のグラフ。横軸が意味の生成、縦軸がテクノロジーの変化です。右側が今回のテーマ。テクノロジーの変化を伴うこともあります。左下に位置するのは、従来の人間中心デザインアプローチであり、この手法は漸進的イノベーションに適した手法だと理論では言われています。あくまでも理論ですので鵜呑みにはできないかもしれません。
うーん、面白そうではあるし、分かったような気がする。でも、そもそも、「意味の意味って何?」という問いが浮かんだかもしれません笑。今回は、みなさんと哲学的な議論をするつもりはありません。代わりに、みなさんの周りにあるモノやサービスで、みなさんが私にとって"意味"がある、"意義深い"と思うものを理由と共に挙げてみてください。
(オンラインのチャット内で、ポジティブ感情を与えてくれるもの、未来的で持続可能な生活空間などなどが挙げられました。)
よく知られている例が任天堂wiiです。従来、1人でゲームの中の仮想空間に没頭するという意味を持っていたのが、wiiでは友達や家族と身体を動かしたいという意味を持っています。もちろん、人によって意味は異なりますが。
テクノロジーを伴わない例で言えばミニスカートがあります。1960年代、女性の自由の象徴という意味を持っていたようです。
こんな感じで、新しい"意味"の例はたくさんあります。BtoC, BtoB, Product, Serviceどの領域でも。
でも、なぜ、意味の創造によるイノベーションがデザインと呼ばれるのでしょうか? デザインの語源を遡ると、、、省略。デザインとはモノに新しい意味づけを行うことと考えられます。あくまでも、1つの捉え方ですが。
じゃあ、どうやって意図的に新しい意味を創造するの?すみません。まだ、答えは分かっていないし、ないのかもしれません。この図はデザインドリブンイノベーションを提唱したVergantiのプロセスモデルです。詳細には入りませんが、、、
私の意味から始まります。私は人々になにを愛して欲しいのだろうか?という自分なりのビジョンを構築します。そして、自分だけのビジョンを徐々に私だけでない、人々にとっての意味に調節していくイメージです。
デザイン思考との違いをまとめてみました。デザイン思考には、ユーザーの深い理解、マーケットイン、オープンで自由な発想、問題解決、という特徴があります。一方、デザインドリブンイノベーションでは、デザイン思考と異なり、批判的な心構えを大切にし、インサイドアウト、問題を再定義する、という特徴があります。繰り返しですが、あくまでも理論です。
反論があって、ウズウズしているかもしれません。みなさん、このアプローチで新しい意味の創造に繋がると思いますか?
(ここで面白い議論が。Appleのデザイナーさんにインタビューした話、彼らは新製品を開発する際、ユーザーリサーチを行なっていないそうで、社内のテックやデザインに詳しい人達からプロトタイプへのフィードバックをもらっているだけとのこと。なぜなら、ユーザーは何が欲しいか分かっていないからだそうです。その時は、ただの怠慢だと思ったが、この話を聞けば、なるほどと思ったとのことでした。)
実際に第一線で新しい意味を創造したことのあるデザイナーさんに話を聞いてきました。時間が限られているので、さわりだけご紹介します。
そもそもですが、多くの会社やデザイナーは新しい意味の創造をしたがりません。いきなり今回のテーマと矛盾する事が分かってきました。なぜなら、新しい意味を創造するってことは、リスクが高い、コストが高い、他社に新しい意味を模倣される可能性もあるからです。ただし、他者との競争により大きな変化を生み出す必要がある、既存の商品やサービスと人々の価値観に大きな相違がある、というような場合には新しい意味の創造が求められることがあるようです。
理論では、Vision-Pushアプローチを紹介しましたが、単純なマーケットイン、プロダクトアウトという発想ではなく、それらのコンビネーションであると言っています。大きな社会を捉える、顧客を深く理解するという(マーケットインの姿勢)は大前提とした上で、理想とする未来を描き、実現する手段を考える(インサイトアウト)を組み合わせているとのことです。
課題も見えてきました。1番チャレンジングなのは、意味のイノベーションは人々の行動を変える必要があることです。考えてみると、Wiiにしても、ミニスカートにしても、iPhoneにしても、今までの製品を使っていた時とは、人々の習慣、ルーティーンのような行動が変わっていることに気がつきます。その変化をドライブ(駆り立てる)するために、行動科学の理論を活用しているデザイナーさんもいるそうです。
一例ですが、我々が行動を起こす時には、ABILITY(能力)、MOTIVATION(モチベーション)、Trigger(行動のきっかけ)の3つが揃って始めて行動を取ります。(行動科学の理論に偏ったデザインは、倫理的な問題、ユーザーへ不快感を与える可能性があり注意な領域だと思います。)
最後に、デザイン思考を再定義する、というお題でインタビューをしたときの話です。デザイン思考は、共感、定義、、、、というプロセスモデルと捉えるのではなく、本当のデザインとはもっとフレキシブルで、状況に応じて最適と思われるプロセスを選択するという話をしています。特に、Vision-Driven(インタビュー内ではArt-Driven)の場合は、ユーザー調査なしでいきなりアイデア出しから始めることもあるという話でした。その際、ユーザーのリサーチを行わないからといって、ユーザーのことを無視しているわけではないのがポイントだと思います。つまり、すでに生活のどこかでユーザーを観察している体験があったり、自分自身がユーザーの1人である場合には、ユーザーの不満について何かしら仮説がデザイナーの頭の中に無意識にある、と解釈しました。冒頭で取り上げた、イタリアのデザイン会社がマーケットリサーチを行わないといったのも、その業界に何十年と浸っているうちに、顧客との共感は当たり前のように形成されている可能性があり、ユーザーの理解なしに、未来を描いているわけではないように感じます。
終わりに:修論で研究しています。
ここまで読んでくださった方ありがとうございました。
修論では、ポジティブ心理学とデザインの視点から、意味のイノベーションのデザインプロセスについて研究しています。Meaningful(人間にとっての意義深さ)をポジティブ心理学から捉え、その意義深い体験を創造するプロセスについて研究しており、私がIDBMに留学している理由(モチベーション)でもあります。