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「ファッションに“キュン”と来る気持ちを置き去りにしない」 #EMILYWEEKここだけの話 vol.4アートディレクター 中森陽子

「JOURNAL STANDARD」や「IENA」などのファッションブランドを運営するベイクルーズから生まれたEMILY WEEK(エミリーウィーク)。生理週間を軸に、女性の4週間のバイオリズムに寄り添ったライフデザインを提案するブランドです。

ブランド設立から3周年を記念し、このnoteシリーズでは『EMILY WEEK # ここだけの話』と題して、EMILY WEEKの今までとこれからをチームメンバーに尋ねます。

第4回は、ブランド誕生当初から現在まで、コンセプトのビジュアル化を手がけてきたアートディレクター中森陽子の登場です。

「誰もやっていない領域」だから面白い

ーー 中森さんは、EMILY WEEKではアートディレクターとして関わられていますね。

中森 はい。私は社内のクリエイティブデザインチームに所属していて、そこではベイクルーズの60以上あるブランドの中からいくつか担当を掛け持って、ビジュアルやカタログ、ノベルティーなどの販促部分での制作物を作っています。エミリーは社内のスタートアップで、初めての下着商材ということもあって、かなり踏み込んだところまで携わっています。

どんなフォトグラファーやモデルを起用するかというキャスティングみたいなところから、Instagramの並びや文字組み、店舗に並べるPOPの体裁など、細かい部分まで意見を出していて。担当している他のブランドでは、組織が大きく業務が細分化されているため、キャスティングまではできなかったりするんですけど、エミリーではそこから入らせてもらっていますね。

▲ Insagram投稿の文字組み

私は、主に広告を手がけるデザイン事務所勤務を経て、ベイクルーズに転職しています。インハウスデザイナーは、社内の担当ブランドが得意先のようなものなので、何事もクイックに密にやっていけるのが良いところ。とくに、エミリーは少人数のチームのため、アイディア出しを何度もするなど、コミュニケーションを頻繁にとっています。

ーー 第1回のnoteでは、EMILY WEEKコンセプターの柿沼さんが、中森さんの産休明け1日目にチームに誘ったという話が印象的でした。

中森 実は、一番初めに声をかけられたときは、内容を詳しく分かってなくて(笑)。でも、あとで「生理週間を軸にするファッションブランド」というコンセプトを把握して、正直「マジでやるの!?」って思いました。この企画がベイクルーズのスタートアップとして通過したことも驚きで。「ファッション性の高い生理用品」というのを、どうやって実現すればいいのか見当がつかなかったんです。

というのも、エミリーが立ち上がった2016年以前は、今のようにお洒落なフェムケア商品を見かけることはなかったから。でも、「まだ誰もやってない領域だから楽しそう」という好奇心が勝りました。あくまでアパレル企業のベイクルーズのブランドとして、ファッション性を保ちつつ訴求するようなビジュアルやクリエイティブにしなければいけないというハードルの高さも逆に面白いなって。

 Instagramで、チームの矢印を1つにする

ーー コンセプトをクリエイティブデザインとして、アウトプットしていった過程を教えてください。

中森 既存の生理用品や布ナプキンをリサーチするところから始めましたが、差別化するためにはお洒落でモダンな第一印象にするのがマストだなと。オーガニックコットンなどナチュラルな素材を使用したアイテムはクラフト紙などで優しい雰囲気を表現しがちですが、そういったものは使わないと決めて、モードな雰囲気をつくることを意識しました。

ーー 方向性が決まって具体化させる中で、難しさを感じた点は?

中森 チームで話し合いながら、「モード」以外にも、「スタイリッシュ」、「ミニマル」、「ジェンダーレス」といったキーワードが出てきたんですけど、色々伝え合っても、人によってその言葉からイメージするものが違うから、言葉に頼りすぎると意思統一ができないんですよね。ほんのちょっとの解釈の違いが誤解を生んで、認識の差が広がっていく…。だから、みんなに共有できるヴィジュアルイメージを提案するのが重要だと感じました。

それからは、なるべくビジュアルで数案を出して、どちらが良いか全員で選びながらイメージ統一をしていきました。InstagramやLOOKBOOKのビジュアル撮影に、最初のフォトグラファーを決める際も候補を数人提案した上で全員で選びました。その後は、素敵なヴィジュアルによって、チームの進む矢印が一つになっていったと思います。

▲ 2017年リリース当時のイメージビジュアル


ーー 当初からInstagramの運用にはとくに力を入れているとお聞きしたのですが、中森さんのこだわりポイントは?

中森 その頃、他のブランドで流行っていたのが、販促訴求に1枚の画像を分割して全体で大きく見せる手法だったんですけど、それだと適当な1枚が出てきてしまうのが残念で。1枚1枚はもちろん、アカウントの画面全体で見たときの美しいバランスを追求したくて、ブランドリリース時の画像の並べ方は何度もシュミレーションしました。

それから、文字は左寄せではなく中央寄せにしたり、Instagramの仕様変更で画面の比率を正方形以外のサイズも投稿できる仕様になってからは、すべて「4:5」の比率でアップするとか、細かなルールを定めていって。「4:5」の比率だと、正方形よりも画像が大きく感じられてタイムラインに流れてきたときに目に止まりやすいんですよね。

チャレンジしている経過も見せるブランド

ーー ちょっとの違いで印象が変わるんですね。

中森 そうなんです。ちなみに、「TOP AWARDS ASIA」を受賞したオリジナルの布製ライナーのパッケージも、最初にサンプルで作ったのはもう少し正方形寄りだったのですが、最終的には長辺を数センチ伸ばして、モダンな印象を強める選択をしました。布製のライナーに関してはピスネーム(二つ折りの小さなタグ)もデザインしたのですが、こういう細かい部分のあしらいの積み重ねによりファッション感が高められると感じています。

▲ EMILY WEEK 布ライナー

とにかく、当時は前例のない中でのスタートだったので、私の立場としては、ビジュアルを見せながら、「こっちよりはこっちだよね?」と、常にチームでイメージを共有しながら進めていった感じ。それに対して、主要メンバーがそれぞれ正直に意見を言っていく。多少の小競り合いはありつつも(笑)、根本のところで「何をいいと思うか」のセンスが一致していたのは良かったですね。

正直、今のヴィジュアルやクリエイティブがベストだとは思っていません。ただ、どんどん時代が変わっていって、何が正解か分からない中で、新しいことにチャレンジしていく過程も見せていくブランドがあってもいいんじゃないかとそんなに神経質にならずに、チームで積極的にもの作りができていることがありがたいです。

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▲ 2020AW 最新ビジュアル モデル在原みゆ紀さん起用

ーー これまで嬉しかった反応は?

中森 ややこしい話だし、推奨はできないですけど…、「パクられてる?」と思うビジュアルやアイテムを見かけると、内心嬉しかったりします。「真似したいほど、いいと思ってくれたんだな」と。Instagramの様々な試みについては、うちが最初だったかどうかは分からないんだけど、エミリーと似たようなトンマナのアカウントが増えたりすると、「影響を与えるものをつくれたのかもしれない」と個人的には手応えを感じます。

ブランドの歴史と知恵が詰まったノベルティー

ーー ここだけの話、中森さんが作成された歴代のノベルティーが限定にするにはもったいないという話が出るほど可愛いという噂なんですが。

中森 ブランドリリース時に配布したハフポストの「#ladiesbeopen」のコラボポーチ、西武渋谷でポップアップを開催したときの「月の満ち欠けカレンダー」、ニュウマン横浜店オープン時の山本美希さんとの漫画コラボを記念したランジェリー巾着など、出店やイベントがある度に作ってきました。以前生理用品ブランド「ソフィ」さんとコラボしたときの四角い布のポーチは配布開始日に店頭オープン待ちの方がいらっしゃるくらい人気で。

ノベルティー作りのこだわりは、エミリーのコンセプトからブレないように、オーガニックコットンや再生素材などを使用すること。社内スタートアップなので他ブランドより予算も正直かなり限られているんですが(苦笑)、その中で工夫して、可愛いデザインポイントをたくさん作るようにしています。それがなんだかゲームみたいで楽しいし、色々な知恵が生まれている気がしますね。

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▲ 「ソフィ ORGANIC® オーガニックコットン」コラボポーチ(配布終了)

ーー 12月に発売されたコットンバッグとショーツセットのポーチも中森さんのデザインだそうですね。

中森 コットンバッグは、布を作るときにでる端材を集積して作られたリサイクルコットンを使用しています。エミリーには女性の4週間のバイオリズムに合わせて4種類のテーマがあり、以前それをイラスト化したことがあって。今回は「リセット」の時期をイメージして描いた静かな海に日が上っているイラストをプリントしています。ファッション的な部分も配慮できるよう、シルバーの箔押しでモダンな印象に仕上げました。

ショーツセット」も、最初は紙箱の案が出ていましたが、やっぱり再利用しやすいものという方針に転換して、布製のBOX型ポーチになりました。でも、これも環境へのせめてもの配慮というぐらいの感覚で。ホリデーシーズンを迎えますし、お友達やご家族、自分へのギフトとして楽しんで利用していただけたら嬉しいですね。

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▲ EMILY WEEK リサイクルコットン バック

 細部に宿す「キュン」と「軽やかさ」を大事に

ーー「女性の心身や環境へ配慮を行うファッションブランド」という先駆的なチャレンジをされているのに、それを強く押し出さない姿勢も特色だと感じます。

中森 何よりの前提として、ファッションブランドとして「可愛いものを所有できた幸せ」をお客様に届けたいという気持ちがあります。だって、包装材とかって本当にエコのことを考えたら余分なものじゃないですか。ただ、新しいブランドだし広告的な効果も期待している部分があるんです。だから、せめて作るんだったらできるだけエコなものにしようと努力しているんですけど…。

やっぱり、キュンとするとか、可愛いとか、綺麗だなと思う気持ちを置き去りにしたくないんですよね。エミリーってコンセプトが明確な分、どうしても説明的になりがちで、重く受け取られてしまう可能性もあります。ファッションとして、パッと見でキュンと来たり、「可愛い!」と思ってもらえるような軽やかなあり方が大事だと思うので、その辺のバランス感にすごく気をつけていますね。

ーー「キュン」と来るポイントまで持っていくコツは?

中森 うーん、「キュン」は細部に宿るんじゃないでしょうか。たとえば、ジッパーが太いと可愛くなるけど、細いと甘くなるとか。そういう小さな判断と選択を積み重ねることで、目の前に「可愛い」が立ち上がるというか。だから、自分がキュンとしたときは、なぜ自分がそういう感覚を得たかということを、最小単位まで分解して、さらにデザインに紐付けて考えることを習慣にしています。

「この位置だから」、「この素材だから」、「この季節に見かけたから」とか、絶対に何か理由があるはずなんです。だから、自分の心が動いたときは徹底的にそれを詰める。その訓練によって培ったアイディアの引き出しみたいなものを、ノベルティーやショッパーなどの制作物を作るときに、一段一段開けているようなイメージです。

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▲ エコ認証紙、アボカドインキによるEMILY WEEKショッパー

ーー ブランド3周年を迎えて、今後の目標は?

中森 女性の心身や環境に配慮したアイテムを、フェミニンさやエココンシャス感を押し出さず、ファッション性高く見せるという裏テーマには引き続き取り組んでいきたいです。ブランドが誕生してからも様々な社会の潮流の変化があって、それがデザインのアウトプットにどう影響するかということはもちろん考えます。でもそれよりも、エミリーというブランドとして、やること、やらないこという指針の方を大事に、ブレずにいたい。

ちょっと偉そうなことを言ってきましたが、個人的には「笑い」を大事に仕事をしていきたいです。今は長男が生まれ時短勤務で働いているので、限られた時間の中でのものづくりを円滑にするための手段として、朗らかでいる努力は惜しまないようにしています。やっぱり、ずっとシリアスには生きられない。失敗や嫌なことがあっても、それを笑いに変えるような軽やかさが好きなんです。


文・編集 皆本 類

中森陽子 / EMILY WEEK アートディレクター
京都府京都市出身。大学卒業後、デザイン事務所で勤務。転職後(株)ベイクルーズのクリエイティブデザインチームに所属。
EMILY WEEK CONCEPT
「日常を、心地よいリズムに。」
EMILY WEEKは生理週間を軸に、
女性の4週間のバイオリズム:Reset-Active-Neutral-Balance
に寄り添った新たなライフデザインを提案します。
日々を頑張るすべての女性へ、それぞれに合った心地よいリズムをサポートしたい。
EMILY WEEKを通じて自分と向き合うことへの喜びに出会えるよう願って。

EMILY WEEK 店舗情報

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