【日本美術でChillする】♯3 川瀬巴水「芝増上寺」
今夜はよく冷える。雪の晩は、不思議と静かだ。
ぎゅっ、ぎゅっ
だんだんと大きくなるその音とともに、美人が歩いてくる。
傘が隠したその顔は
雪のように白いのだろうか。
ここは東京、芝の増上寺。
降りしきる雪は、色を刷らず、時の白を残すことであらわされている。赤と白、黒と白、ほとんど三色だけで表現されているのに、情景をここまで雄弁に伝える。
真っ赤な建物は、今もそびえる増上寺・三解脱門。今はこの門の向こうに、同じく赤のランドマーク・東京タワーが見える。
小走りに通り過ぎる女性。降り始めた雪を傾けて、家路を急ぐようだ。その顔を隠すことで、無限の想像力をかきたてる。
傘の、雪が積もった部分をようく見て欲しい。絵具をのせずに刷って凹凸をつける、「極め出し」と呼ばれる技法。「空摺り」とともに、今日でいうエンボス加工にあたる。