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【日本美術でChillする】♯3 川瀬巴水「芝増上寺」


川瀬巴水「芝増上寺」 Ohmi Gallery

今夜はよく冷える。雪の晩は、不思議と静かだ。
ぎゅっ、ぎゅっ
だんだんと大きくなるその音とともに、美人が歩いてくる。
傘が隠したその顔は
雪のように白いのだろうか。
ここは東京、芝の増上寺。


降りしきる雪は、色を刷らず、時の白を残すことであらわされている。赤と白、黒と白、ほとんど三色だけで表現されているのに、情景をここまで雄弁に伝える。
真っ赤な建物は、今もそびえる増上寺・三解脱門。今はこの門の向こうに、同じく赤のランドマーク・東京タワーが見える。

小走りに通り過ぎる女性。降り始めた雪を傾けて、家路を急ぐようだ。その顔を隠すことで、無限の想像力をかきたてる。
傘の、雪が積もった部分をようく見て欲しい。絵具をのせずに刷って凹凸をつける、「極め出し」と呼ばれる技法。「空摺り」とともに、今日でいうエンボス加工にあたる。

川瀬巴水(かわせ・はすい)1883〜1957
芝(今でいう港区新橋)出身の版画家。円山派の川端玉章、浮世絵系の鏑木清方、洋画家の岡田三郎助など、さまざまな師につき、実らなかったが、その経験が、日本的でありながら洒脱な版画の制作に活きた。巴水や吉田博が手がけた版画は、近世的な浮世絵版画に対して「新版画」と呼ばれている。関東大震災からの復興期に東京を描いた「東京二十景」を発表、「芝増上寺」はその一つ。

増上寺(ぞうじょうじ)
浄土宗。中世までは歴史上目立った存在ではないが、家康の時代から徳川家の菩提寺となり、隆盛を極めた。現在規模は縮小しているが、かつては芝の一帯が増上寺のエリアだった。「芝増上寺」に描かれた赤い「三解脱門」は元和八年(1622)の建立で、当初のものが残る。重要文化財。


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