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梅の焼酎漬けとお向かいの爺様

 今朝、デイサービスの送迎車に乗りこんだ義母を見送った後、母屋の掃除をしていたら家の電話が鳴った。
いつもは義母が出る電話だけど、今日はいないので私が代わりに出る。
「もしもし」と言うと、「あれ?お宅は〇〇(うちの苗字)さんやよな?」と聞きなれた爺様の声が受話器の向こうから聞こえてきた。
そうだ、これはお向かいの爺様だ。御年97歳。時々うちの母屋に来て、同じく90代のうちの義母と話をしていく爺様だ。身体が丈夫で達者なため、介護サービスを受けることなく家族と一緒に暮らしている。昔からなかなか気難しくて頑固なおじさんだったけど、そのままの性格でお歳を召され、今は耳がかなり遠くなり話がなかなか通じない。

今日の電話もそうで、うちの義母はいないのか?と聞いているようなんだけど、耳の遠い老人特有の滑舌の悪さで、何を言っているのか…私にはうまく聞き取れなかった。この爺様と話す時は「これは多分、〇〇について聞いているのだな…」と推測しなから返事をしなくてはいけない。
私が「今日はデイサービスで留守なんです」と言うと、通じたみたいで「そうか、わかった」と答られた。
その後、爺様は何やら話しておられるのだけど、何と言っているのか…やっぱりよく聞き取れない。なんとなく「梅を焼酎で漬けたもの」「梅は漬けたか?」云々という言葉は理解できた。だけど、話の核になる部分は理解できていないので、私は聞き直すつもりで何度も「はい?」「はい?」と相槌を打っていた。すると爺様は「そうか!持っとるのか!わかった!すまなかった!」と言われ、最後に「ありがとうな!」と一言告げると、少し間があった後にガチャ切りしたのだった。

実は義母は、以前から、この爺様がうちに来て話していくのに困っていた。爺様は耳が遠いため、喋る声がものすごく大きく、それで悪く目立ってしまいそうで怖いのだという。そういえば以前、義母は「私は未亡人なのに、(あの爺様が)うちによく出入りして大きな声で話していかれるから、世間の人から変に誤解されるんじゃないかと思うとこわい」と言っていた。

それを聞いた時「えっ?」とビックリしたんだけど、お向かいの爺様は、そんな義母が杞憂していることなんて1ミリも考えていないと思う。単純に人とコミュニケーションしたいだけで、義母には畑で作った野菜やお手製の漬物を時々持ってきてくれる。昔は、そんな人にものをあげたり「ありがとう」を言うような人ではなかったそうだから、すごい変化だ。
爺様もそんな超高齢の未亡人を手籠めにしようなんてよこしまな気持ちは全く持っていないだろうし、ご近所でそんなふうに見る人は誰もいないと思うのだが、妙なところにこだわる義母は、すごく世間体を心配していて、話す時は玄関先で話すようにして、居間には入れないように気を付けていると言っていた。そこは昭和の御婦人だなぁ…としみじみ感じる。超高齢者であっても人間関係の難しさは必ず存在する。いくつになっても悩みは尽きない。

受話器を置いた後、もしかしたら爺様は、梅の焼酎付けを義母にお裾分けしたかったのかな?と気づいた。でも、まぁいいか…。

デイサービスから帰って来た義母には、今日の電話のことは黙っていよう。

歳を取った者同士の人間関係にも気を遣ってそっと配慮する…嫁子のわたしであった。


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Emiko(シモハタエミコ)
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