#61 パトリック・ジュースキント「ゾマーさんのこと」〜加害の記憶という問題 の感想
※これはポッドキャスト番組「翻訳文学試食会」の感想です
今回の本
今回のキーワード
共同体の絆を確認する
ゾマーさんは戦争加害者?
ヴァイツゼッカー元大統領の演説
帰還兵の苦しさ
日本の戦争の物語は被害者側から描いている
罪の意識、加害の記憶に自分が傷つけられる
葛藤の物語が好き
「ぼく」の成長
ゾマーさんのことが主題ではあるのだが、主人公「ぼく」の物語としてもものすごく素敵なお話だと思う。自転車のサドルとペダルに同時に足が届かないから、しばらく立ち漕ぎしてからさっとサドルにまたがり、スピードが落ちてきたらまた立ち漕ぎをする、しかもなるべく人に見られたくないので、人がいるときにはさっととび降りる、なんて描写はすごくわかる。
あとはなんといってもピアノ教室。問題の「黒鍵弾けない事件」にも驚くけど、ちゃんとその後も習い続けていたのがえらい。ブルースやジャズやハイドンやショパンも弾けるようになり、フンケルさんの怒りもやり過ごすことができるようになった、ってすごいな。よく辞めなかったな。
ゾマーさんについて
最後のところで湖に入っていくゾマーさんを止めなかったのはやっぱり「ほっといてもらいましょう!」のことがあったからだろうなと思う。そして「おびえている顔」だと知ってしまったから。ちなみにこの本をまったく知らない夫がゾマーさんの歩いている絵を見て「この人おかしいよ」とずばり指摘した。この柔らかなタッチの絵でゾマーさんの「狂気」を表現できるサンペってすごい。
番組で触れていた「ゾマーさんは戦争加害者なのでは?」という大きなポイント、これは作中では触れていないんだけど、一箇所だけ戦争を匂わせる表現を発見した。カロリーナに「とびきりの道」を教えようと思い、とっておきのポイントをあれこれ挙げているなかに、こんなところがあったのだ。
この箇所に今回の大きなテーマが表現されているだと思う。つまりこういう人が少なからずいて、ゾマーさんもそうだったのではないかと。
ゾマーさんが「行方不明」となってから写真に出た時、「大胆不敵なほどの微笑みを浮かべている」というのが本当に悲しい。
戦争加害の記憶と生きていく人
これは必読。
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