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毎日ほぼ即完状態の大阪新名物(?)「おかんパン」はどう生まれたか?話題化マーケティング

今回4回目の投稿となります。
私、プランナー/PRディレクターを生業としている森本進一と申します。

これまでは、「問題変換力」をテーマに、カンヌライオンズの現地で見てきた受賞ケースから、そのプロジェクトが解決に挑んだ問題はなにかを探す記事を書いたり、巷のニュースから拾ってきた新しいコンセプトや興味深いコンセプトを取り上げる記事を書いてきました。

今回はこれらのケース紹介ではなく、コンセプト開発からクリエイティブディレクションなどのサポートを行い、今年7月の販売以後、毎日即完状態が続く新しい大阪のお土産品?として成長中の、クックハウスの「おかんパン」の販売に至る経緯を紹介したいと思います。

この「おかんパン」は、テレビをはじめとする数多くのメディア露出とともに、ナインティナインの岡村隆史さんやおかんネタで知られるお笑いコンビ、ミルクボーイさんにもSNSで取り上げていただいたり、先日発売された日経トレンディ12月号特集「ヒット予測ベスト30 & ヒット商品ベスト30」でも、”24年地方発ヒット商品”として取り上げていただきました。


日経トレンディ12月号特集「ヒット予測ベスト30 & ヒット商品ベスト30」


岡村隆史さんのインスタストーリーより


元BiSHアユニさんのインスタストーリーより


大阪界隈で密かなブーム(?)にしていただいている、「おかんパン」の販売に至るプロセスを一部ご紹介させていただき、マーケティングや新規事業に携わっている方など、読んでいただける方の頭の片隅に残り、いいアウトプットの参考にしていただけると嬉しいです。

個人の見解なので様々なご意見もお有りかと思いますが、大目に見ていただけると幸いです。

「おかんパン」を仕掛けたのは、大阪で78年続く老舗ベーカリーショップ「クックハウス」

最初にクックハウスについて紹介をすると、クックハウスは大阪市の生野区に本店がある、創業78年の株式会社ダイヤが運営しているベーカリーショップブランドです。https://www.cookhouse.jp/
阪急三番街店、あべのキューズモール店、なんばウォーク店など、大阪と奈良に19店舗を展開するなど、毎日7,000人が訪れ、毎日100種類以上のパンやサンドイッチを販売し、地域の人々に長年愛されています。(パンもサンドイッチも本当にどれも美味しいです)

クックハウスあべのキューズモール店
クックハウス近鉄生駒駅店

駅ナカや商業施設店舗も多く、毎日通勤時や帰宅時に買っていただく方が多いブランドなのですが、日常導線にあるがゆえ、風景に入り込みすぎてブランドとしての認識がなされていない(クックハウス、としてではなく、駅のベーカリーだと認識されている)という点も課題でした。
そして、コロナ禍で通勤などの機会が減ったことによる売上回復も含めたアプローチが急務となっていました。

いかにブランドへの入口を増やし、たどり着く確率を高めるか?

まずアプローチとして考えたのは、コロナ禍が落ち着いて通勤や移動が戻る中で、改めてクックハウスを思い出してもらうこと、そして、”駅のベーカリー”ではなく、よく見かける駅にあるベーカリーが、”クックハウスという大阪のベーカリーである”、ということを知ってもらうため、ブランドと接触する入口を増やすことを行いました。

そのためにまずコンセプトの再設定を行ったのですが、従業員の方々への既存イメージのヒアリングなどを行った際にクックハウスに対して、「温かい気持ちになるお店」「シンプルだけど、安心する美味しさのパン」などの声があがりました。
このような声をもとに、クックハウスのブランドの源泉は何かと考えたときに、それは「ふっくら包み込むようなあたたかさ」にあるのではないかと考えました。

そこで、ふっくらとした美味しいパンとともに、様々なプロモーションでも”気分がふくらむ”情報を発信していきたいという意図を込め、クックハウスのブランドコンセプトを「気分ふくらむ、毎日。」として再設定、各種プロモーションなどの内部指針といたしました。
(このコンセプトは対外的に発信するものではなく、内部で様々な指針を考えるうえでの羅針盤という位置づけで設定)

さらに、このコンセプトを象徴的に伝える、”クックハウスといえば○○”というシンボルの設定も必要だと考え、カスタードクリームを何層にも折り込んだひとくちサイズのパンで、1日に一番売れている商品である「ミルクパン」を”フラッグシップパン”として発信することにいたしました。

1日3000個売れる、人気No.1のミルクパン

これらのコンセプト再設定をベースに、昨年7月には接触機会をつくる情報発信を行いました。

そこで昨年行ったのが、
77周年で「ミルクパン」77円、ナナが付く名前で“7円”に、7月7日から7日間限定キャンペーン
です。

このキャンペーンでは、大阪に長年根付いているブランドであることを改めて知ってもらうために、創業77年である「歴史性」要素とともに、それを強調するため、7月7日から7日間限定で77円にしたことと、”ナナ”という名前が入った人には7円にする、という「大衆性」「ユーモア」要素、さらには、物価が高騰しているタイミングに合わせた「時事性」要素といった、4つのニュース性を組み合わせた情報開発を行うことで、数多くのメディア露出とSNSにて発信を頂く機会となり、一定程度ブランドを思い出してもらう接点となりました。

様々な方々が紹介されているもの+独自要素を組み合わせたニュース要素

エントリーポイントを増やし、クックハウスが選ばれる確率をあげる

この情報発信で一定程度、日常導線におけるクックハウスとの接点を作ることができたことで、さらに選ばれる確率をあげていくために行ったことが、カテゴリーエントリーポイント(CEP)の拡大です。
カテゴリーエントリーポイントは、生活上のシーンやタイミング(生活文脈)とブランドを心理的・物理的に結びつけていくことで、商品を利用するきっかけとなるシーンやタイミングのことです。この数が多ければ多いほうが必然的に選ばれる確率が高くなります。

カテゴリーエントリーポイントに関しての解説は下記の書籍が大変参考になります。

”フラッグシップパン”として据えた「ミルクパン」における既存のエントリーポイントは、朝食や昼ご飯、おやつなどの「日常食」でのオケージョン。
そこから、知人や友人への「差し入れ」や、大阪に来た人や大阪から別の場所にいく「大阪のお土産」といった「特別食」へとオケージョン拡張ができるのではないか、と考えました。

その背景としては、
・パンはお一人でも楽しめる一方で、購入されたお客さんが帰宅した家族とも一緒に喜んで、楽しんでもらえているということ(ゴール)
・来年25年に大阪万博が行われ、国内外より数多くの人々が大阪に来る可能性があるといった「時事性」「社会性」のニュース要素があること(シーン)

これらも加味し、「日常食」から「特別食」へのオケージョン拡張にトライしました。

カテゴリーエントリーポイントの考え方の例

大阪のお土産=「豚まん」を変える、新しいパーセプションづくり

しかしながら、大阪のお土産といえば、551などの「豚まん」や、お好み焼き味のご当地ポッキー/じゃがりこなど皆さんご存知のブランドも多く非常にプレイヤーが多い市場だと思います。(美味しくて、つい買ってしまいますね・・・)
そこで取り組んだことは、新しいパーセプションをつくり、大阪のお土産としてミルクパンが想起される機会を増やすアプローチです。

パーセプションとは、第三者から見たモノゴトの見え方や捉え方のことを指しますが、大阪のお土産における既存のパーセプションは、「大阪のお土産は、名が知られた有名なものがいい。」ということになるかと思います。

トライしたパーセプション拡張のイメージ

ここで少し視点を引いて、仮説を考えてみました。
豚まんなどはすでに大阪土産としてメジャーブランドである。
一方で、地元の人に愛されている、地元の人しか知らないローカルなものを渡したい、というインサイトがあるのではないか。
(個人的にも、大阪出張の機会が多かったときに、意外と他の人とお土産が被ったり、毎回同じものになってしまいがち、という経験があったので、そのような仮説にも至りました)

そこでクックハウスでは、

「大阪のお土産は、地元で愛される地元の人しか知らないものもいいね」

というパーセプションづくりを行うことで、大阪のお土産としてミルクパンが選ばれる状況を作れるのではないかと考えました。

そして、この新しいパーセプションをつくるためにトライしたのが、
「思わず誰かに話したくなるストーリー」の強化です。

そのストーリーとは、
・創業から78年もの間、大阪の日常の食卓を支えている”ソウルフード”ブランドであること
・そして1日3000個も買われるほど地元の人々には人気である「ミルクパン」をベースにしていること
・さらには大阪と奈良以外(通販なども)販売されてこなかった、生粋の大阪発ブランドであること。


これらの大阪で愛されつづけているというアイデンティティを強調し、クックハウス=大阪のベーカリーであることを内外にも発信していくため、大阪色を全面に打ち出すアプローチを行いました。

そして、活用したモチーフが、「大阪のおかん」です。

1日3,000個売れるミルクパンの商品特性は活かしたまま、チョコ味を追加したほか、多くの人たちのイメージとして根強い”大阪のおかん”の要素を用いてキャラクター化し、パッケージやパンの焼印に採用。名称はそのまま「おかんパン」として、「一見性」を高める工夫をしています。

おかんパン限定のチョコ味と、ミルク味におかんの焼印をつけて販売


そして、さらに購入した人と、お土産として受け取った人がSNSで投稿したくなり、それを見た人も興味を持っていただけるように、パッケージには、「おかんの語録」を全面に置く工夫を行いました。
この語録は、地元のおかんスタッフたちが製作やメインで選定に携わっているので、非常にリアリティがある言葉です(笑)

おかん語録の例
おかん語録の例

”大阪5大お土産”の一つとして数えられる?

このような背景の元生まれた「おかんパン」ですが、結果、今年7月のリリース以来、各種メディアやSNSでも取り上げていただくなど、非常に多くの反響をいただき、毎日即完に近い状態で推移しております。


最近、あるユーザーの方のXにて下記のようなポストを投稿いただいているのを見かけました。

まさに、ブランドにたどり着く確率を高めるところから始まり、大阪土産の一つとしての想起入りを目指し、まだ道半ばですが新しいパーセプションづくりにトライしてきましたので、徐々にそれが実を結びつつあることを嬉しく思います。(まだまだ拡張していける可能性は大いにありますが!)


最近では、おかんパンのオリジナルグッズの製作やポップアップイベントも開催するなど、さらなる拡張を続けています。今後、様々な展開を続けて、大阪の5大お土産としての想起集合に残り続けられるよう、アプローチを続けていきたいと思います。

おかんパンの「あめちゃん袋」
おかん語録もどんどんと増やしていく予定です

ぜひ皆さんも大阪に行かれた際は、おかんパンをお土産や旅のお供として購入いただけると幸いです!

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以上が、現在反響をいただいているおかんパンの販売に至る経緯をご紹介しました。今回は主に戦略面でのアプローチをメインでまとめましたが、実際にリリースタイミングからどのように情報を拡張させていったかといったPR戦略についても、もしニーズがありそうならまた書いてみたいと思います。

最後までご覧いただいた方、ありがとうございました。

※普段は主にXで発信しております


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