地方から見ると、後期高齢者は富を生み出し、子どもは富を流出させる。だから少子高齢化は進行する
後期高齢者の医療費自己負担は極めて安く、その医療費は健康保険組合と国庫から殆どが支出されるために、地域を豊かにする。
これは貧しく、高齢者が多く、子供が地元に残らない傾向のある地方では確かに当てはまってしまう。東北地方が良い例だろう。
なぜこうなるかを具体的に示していこう。
また、これは最終的にどうなるかを、単純化したモデルを描きながら考えてみよう。細かい計算式が自治体によって違うので、いったん秋田県のデータを参考にしながら考える。
1.後期高齢者
まず、入院中の75歳を考える。
彼は厚生年金と国民年金を受け取る。その金額を20万円とする。
収入はこれだけで、不動産や債券による収入はないと仮定しよう。
住民税、所得税、介護保険料、後期高齢者保険料などが徴収されるが、これをシミュレートするのは難しいが、額面を20万円とすると、ざっくり10%くらい引かれるようだ。
つまり、彼の手取りは18万円/月である。
彼は療養型病院に入院している。全介助でおむつ、衣服などはレンタルするとしよう。
医療費は1割負担、一般1として、高額療養費の基準に当てはまった状態で1年入院すると、年間14万4000円かかる。
月にすると、1万2000円だ。
食費は460*30=13800円
居住費は370*30=11100円
病衣 月10000円
おむつ代 月30000円
テレビ 月3100円(これはきりをよくするために恣意的に決めた。実際には5000-10000円程度と想定されている)
合計すると、彼は月8万円を消費する
年金手取り 18万円 ー 入院費用 8万円 = +10万円/月の利益が生まれる。
また、彼の入院費用は100万円/月とする。これは特に突飛な計算というわけではない。
病院の費用の半分は人件費なので、50万円が病院職員に分配される、とする。
つまり彼は彼自身の家計に10万円/月の収入をもたらし、地元の病院に月100万円の医療費分の仕事を生み出し、半分の50万円が人件費として地域に還元される。
地方も確かに医療費の5%,5%を県、市町村で負担するので、10%の負担とざっくり考えよう。10万円分は市町村・県の医療負担となる
2.現役世代
さて、次に東北地方の某県の正社員の平均年収を見てみる。
30万円/月程度のようだ。手取りはおよそ24万円になる。
所得税、住民税、健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険の合計がおよそ6万円だ。月2万円ずつ貯蓄をするとする。
また、彼は趣味や服、通信費などでおよそ4万円を県外に消費するとしよう。
彼は彼自身の家計に2万円/月の収入をもたらし、7万円が税や消費として県外に流出し、21万円分の消費活動や住民税として、地域にお金を流出させる。
3.子ども
さて、15歳の子どもがどれくらいお金が必要かだが、これは養育費の算定表を参考にする。妻0円、夫375万円の年収があるとすると、月の養育費は6-8万円になるので、7万円と考えよう。
このお金のうち2万円が県外の消費活動に使用され、5万円が県内の消費になるとしてみよう。
一応、子供手当として月10000円の給付がある。
また、彼らのうち半分は県外に就職するとする。
これをざっくりまとめて表にしてみると(厳密な計算は困難なのでしていない)
このようになる。
見ればわかるとおり、地方で最も消費してくれて、貯蓄を増やしてくれるのは入院中の後期高齢者だ。
大人は次に県内で消費してくれる。
子どもは県内であまり消費してくれないし、育児のためのお金は大人の家計から捻出される。
そうやって育てた子どもが成人しても、地元で働いてくれる可能性は50%程度だ。
つまり貧しい地方にとって最も経済に貢献するのは、入院中の後期高齢者なのだ。
高齢者は現在の社会保障制度では、地方に富を生み出す。
正確には、国庫ないし、全国の労働者の富を、健康保険組合や国庫からの拠出を通じて地方に流入させる。
子供は、成人して働くまでは地方の富を食事、衣類、学費などの形で流出させる。また、大学進学を契機に東京などに移住するので、将来の生産力としても期待ができない。
これはそのまま少子高齢化が東北地方で進行する理由でもある。
なぜ東北地方なのか、といえばこの地方は
・子どもが地方に残らない傾向があり
・残ったとしても生産性の高い仕事が少なく、生産性の低い職業である医療従事者の割合が高く、また医療従事者の給与も比較的高く
・高齢者が流出しない傾向があるからだ。
もし子どもが長じて地元に残り地元の企業で働いたり地元の生産性を高める場合は、投資と捉えることもできる。つまり、今はお金がかかるけど将来的には地域の生産力を高めてくれる、と。
しかし子どもが残らないか、引きこもりになるか、あまり生産性の高い仕事につかない場合、経済的には、地方だけを見れば負債となる。
つまり地方の富を使って、生産性活動は東京で行うとすれば、生み出された富の殆どは地方に還元されないのだ。
ここで疑問に思うかもしれない。この寂れた地域が豊かとはどういうことか、と。
地方を豊かにする、というのは別に町を賑やかにするわけではない。地方が多くの高齢者を抱えることで、より多くの資金や資源が使えるようになるだけだ。
そして、見ての通り、本例で提示された後期高齢者の消費は、殆ど病院で行われる。また、貯蓄はただ銀行口座に入金されていくだけで、何か別の投資や消費に繋がるわけではない。
まあ、間接的に医療従事者の給与に反映されることで、その地域のサービス業にお金が落ちるかもしれない。でもそれくらいだ。
全ての後期高齢者が入院しているわけではない、ということはできる。
ただ、後期高齢者の自己負担割合が1割で、月の医療費平均(保険ではなく、実学)がおよそ8万円程度、ということを考えると、その消費パワーに、医療限定で強いブーストが乗っているのがわかる。
さて、年金と健康保険の費用はどこから来るだろうか。
賦課型の年金であるということは、勤労世代のお金が送られてくるということになる。
また、医療費も健康保険組合と国庫が大半を拠出する、つまり全国の労働者から拠出されているということがわかる。
また、市町村の、都道府県の財政は地方交付税交付金と国庫拠出金で補助されており、地域によっては80%程度を国、都道府県からの拠出金や地方交付税交付金で賄っている自治体もある。
なんというか、貧しい自治体ほど多くの国庫拠出金と地方交付税交付金を受けられる仕組みになっているのだ。
したがって高齢化が進み、富を生み出す力が乏しい地域ほど多く貰える仕組みになっている。
一方で、子どもは地域にとって負債だ。
まず、子どものためのおむつ、衣服を含む生活費は地域外で生産される。つまり子どもが多いほどにお金は外に流出する。
例えば秋田県では、高校生がその後の人生で県内就職する可能性は55%にすぎない。
つまり、投資しても地元の生産性に寄与してくれる可能性は55%にすぎないのだ。
またこの図に戻ろう。県内の消費を活性化し、雇用を増やそうと思えば
高齢者を増やし、高齢者に長生きしてもらうことで活発に消費してもらい、地域の経済を活性化し(医療・病院に限定されるが)
子どもを減らして消費を減らす
ことが最適解になる。
高齢者は年金をもらう。
これは賦課方式だから実質的に現役世代から20万円の仕送りである。
また、医療・介護の需要も大きい。
医療保険は国庫と健康保険組合による支援の割合が大きい。
そして、病院自体は半分が人件費だから、高齢者を増やし医療ニーズの高さを示せば人口が減少するなかで病床数を維持し、稼働させ続けることで、保険組合と国庫から人件費として富を還流させることができる。
しかしこのモデルには幾つか問題がある。
1.高齢者の貯蓄はどう使われるか?
実際、これを他の人が消費するというわけにもいかないだろう。積みあがっていくお金は、施設入居費用や自宅の維持・管理などに使われるのだろう。
それでも貯蓄はあると思う。
75歳男性の平均余命は12年だから、87歳で相続するとして、妻は87歳、息子は60歳だ。いずれにせよ老後の預金として使われることになる。つまり、相続財産が高齢者の間で行き来し続けるだけだ。医療・介護産業以外に使われないのだ。
2.医療費として国庫・保険組合から拠出されたお金の用途は?
原則として医療以外に使うことはできない。つまり、別の産業を発展させるのには使えない。それどころか、医療・介護系だけお金が流れ込むので、他の産業に行くはずだった人たちも医療・介護産業に流れ込み、他の産業の発展が停滞するかもしれない。
3.持続可能か?
子どもが生まれなければ、人口が減る。人口が減れば人が居住できる領域は狭くなり、インフラの維持も難しくなる。熊などの自然災害にも脆弱になるかもしれない。実際、秋田県の人口は30年で42%減り、50%が高齢者になると言われている。
明らかに持続可能ではない。
また、地方に富が還流すると言ったが、地方はなぜ娯楽が少なくて、店もろくになくて街に活気もないのか?と疑問が生まれるだろう。
理由は簡単で、富の使い方が限られているからだ。
高齢者はあまり消費をしない。入院していれば病院以外では殆ど消費しないだろう。
そして、医療費の半分は医療従事者への人件費に使われ、残りは医薬品や病院の維持に使われる。
つまり、地方の民間企業に殆どお金は流れないのだ。
医療従事者は比較的豊かなので、一部のサービス業の需要が喚起されるかもしれない。
しかし、それくらいだ。確かに入院した高齢者の口座残高は増えるが、消費しなければ何にもならない。正確には死亡とともに相続されるが、相続の多くは高齢の妻に流れていく。そしてその妻は男性より4年ほど長生きして死亡する。その時息子は60歳代から70歳代だ。一般に高齢者はあまり消費しないため、このお金は医療・介護費用に消えていく。
地方が豊かだけどお金を使っても発展しない理由がわかるだろう。お金を注ぎ込んでも大多数が医療・介護産業に消費されるか、銀行口座に死蔵されて、相続されても医療・介護費用に使われてしまうのだ。
この流れをどのように変えることができるだろうか。
単純に言えば医療費の自己負担額が全員三割になって、高額療養費が撤廃されればこのモデルは破綻する。
最初に、現行の後期高齢者制度では、年金が月20万円の場合後期高齢者の医療費は最大で月1万2000円になると書いた。
そして手取り18万円、諸支出が8万円だから、10万円の黒字だと。
さて、医療費3割負担の世界ではどうなるだろうか。
彼は療養型病院に入院している。全介助でおむつ、衣服などはレンタルするとしよう。
医療費は3割負担、高額療養費が存在しないとすると、
月100万の医療費は7割引きで、30万円だ。
食費は460*30=13800円
居住費は370*30=11100円
病衣 月10000円
おむつ代 月30000円
テレビ 月3100円(これはきりをよくするために恣意的に決めた。実際には5000-10000円程度と想定されている)
合計すると、彼は月36万8000円を消費する
年金収入を考慮すると、手取り18万 ー 諸費用36万8000円で
18万8000円の赤字だ。
当然ながら支払い続けることは難しく、いずれ資産を売って生活保護になるだろう。
もしくは医療を最小限にして、自宅で過ごすことを望むかもしれない。
自宅で過ごし、医療を殆ど消費しない場合、高齢者は年金の範囲で消費することになり、医療・介護産業を豊かにすることはない。
しかし、そうなれば医療従事者に偏重した給与の歪みも是正され、生産性のある産業に人が流れていくことが期待できるし、それは巡り巡って地域の豊かさを高めるように思われる。
一方で、病院は赤字になり縮小、合併を余儀なくされることになるだろう。それは衰退した地方の最後の景気が良い立派な場所を失ってしまうことになるかもしれない。
まとめ
地方の財政という観点で見た場合、入院中の後期高齢者は国や現役世代から病院や年金を通じて地方に富を還流させる。
病院の支出の半分は人件費なので、高齢者が多く入院すれば人件費として地域の雇用に還元できる。
また、厚生年金+国民年金+高額療養費を組み合わせることで、後期高齢者の貯蓄は月10万円増える。
つまり、後期高齢者が多くいると、地方は豊かになる。
少なくとも、医療費や医療従事者の給与には貢献する。
逆に言うと、それくらいにしか使えないから、一般的な意味での豊かさは感じられない。むしろ医療・介護以外の産業は衰退しやすくなる。
一方、子供は半分が地方から流出してしまう場合
地方の富を使うだけ使って生産活動ができる頃にはいなくなってしまう割合が高い場合
子どもは負債と考えることができてしまう。
なので、現行の保険・介護・年金制度の元では、高齢者が優遇され、子どもはあまり大切にされない。
しかし、この制度は子供が生まれて地元に残り続けて、医療を支え続けることに依存しているので、持続可能性がない。
…しかしこうやってまとめてみると、地方の病床数が減らず、医療費が増え続けていく理由が痛いほどわかるな。
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