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飛騨高山への移住でわたしが手にした豊かさの本質

私が幸せな移住ができた理由

Elämä(エラマ)プロジェクト代表の石原侑美です。
わたしは2020年に岐阜県飛騨高山に移住しました。目的は「暮らしを変える」ためでした。
移住する前は東京で10年間暮らしていましたが、実は東京での生活には満足していたんです。

でも、フィンランドの生涯教育を研究していることもあり、フィンランドと自然の関わりを目の当たりにするにつれて私には「自然スイッチ」が入っていきました。
自然の匂いを感じられる生活スタイルや、時間通りに予定を済ませるような機械的な世界ではない状況を求めている感覚があったのです。
「豊かで幸せな生き方を追究する」というエラマプロジェクトそのもののミッションもあり、暮らしを変えるために移住してきました。

移住ですからもちろん覚悟も必要でした。
これまでとは全く異なる環境になること、例えば夫の両親と一緒に暮らすとか、運転免許を取得する必要があるとか。(30代半ばで自動車学校に3ヶ月通いましたよー!)
あとはそもそも仕事はどうなるのかという不安もありました。

飛騨高山は夫のふるさとです。
夫は東京生活20年で、わたしとは逆で都会はしんどいと感じていたんです。だから地元に戻って来てよかったとずっと言っていますね。

わたしは大阪出身で、大阪から東京へ引越したときには、1週間めまいと吐き気が続きました。東京が嫌だったというわけではなく、東京へ行った理由が大学院への進学のためだったので、高みを目指そうという感覚がありました。チャレンジすることの高揚感から、自分のことをいたわるよりも自分をレベルアップさせたいという気持ちが強くて、すぐに身体にきてしまいました。

その時と比べると今回の移住では健康的に過ごせています。自宅の畑で朝採れた野菜をその晩に調理して食べるような環境であったり、睡眠も当初は10時間くらい寝ていたり(笑)。

しかし、移住に関してはフィンランドというひとつのイメージはありましたが、やはり「人」がすべてだなと感じています。
一般的にも移住するにあたっては覚悟しなければならないことはいろいろあると思うんですが、多くの人が一番気に病むことはやはり人となじめるかどうかではないでしょうか。

わたしの場合は飛騨高山に夫の両親がいて、夫もいてみんなで暮らすという状況だったからすんなり来れたというところがあります。

今までの暮らしをガラリと変えることを選択したわたしが、豊かさを感じながら生活や仕事をできているのは、お義父さんお義母さんの器の大きさのおかげです。二人のキャラクターというか、わたし自身を受け入れてくれた寛大さが第一にあります。

どこに移住するのでも「人間関係をつないでいく」ということがキーポイントだと思っています。

自然がもたらしてくれる豊かさ

移住して1年近く経ちましたが、間違いなく暮らしは豊かになったと感じています。

夫の実家は増改築を繰り返しながら築130年にもなる家で、和室の一つを仕事部屋として利用しています。改装の際、夫のご両親はわたしたちに主導権を委ねてくださいました。
畳の素材をイグサにするか和紙にするかもそうですし、昔使っていた囲炉裏が出てきたことでそれをどうするかについても。

畳に関しては、値段は高くなるけどこだわってイグサにしたんです。するとアロマを焚かなくてもイグサの匂いでアロマ効果を得られたり、手触りの柔らかさを感じられたり。
囲炉裏も復活させました!
家族みんなで対話しながら作り上げた空間であることも心地よさの理由のひとつだと思います。

イグサの畳にしたことで掃除の手間がかかったり、囲炉裏の管理がめんどくさかったりなんかはもちろんありますが、囲炉裏のそばで晩酌を楽しみながら「本当ならこれって旅館でしか体験できなかったことなのかも」と感じています。
思いきって実現してみると、その状況がすごく豊かで、みんながいいなって思ってくれているということが最近よくわかるようになりました。

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エラマプロジェクトを通じて自分自身も学びながら、今回移住して感じたことはいろいろあります。
例えば先述のようにイグサの匂いは自然を感じる匂いで、人間にとって癒し効果になっているとか、そもそも日本の木造家屋は木が生活空間にあるからそれだけで自然とつながれているとか、それを知った状態で暮らしているから何もしなくてもきっと豊かなんだということとか。
わざわざアロマキャンドルを買わなくてもいいし、入浴剤も買わなくていい。

おかげさまで、自分を豊かにするものが元来の日本の生活の中にはあるということを体験できているのです。

この家で暮らす中で、日本家屋をはじめとする先人の叡智がつまったものは、フィンランドと同じくらい自然と強くつながっていたんだと感じました。
そうすると、自分のルーツや今いる空間にすごく誇りを持てるようにもなったのです。

飛騨高山で手に入れた「不便益」

飛騨高山の方は、おおらかで人懐っこい人が多い印象です。

わたしがフィンランドと飛騨高山が似ていると感じたところは、自然が多くて草の匂いや土の匂いを感じられるところはもちろん、加えて木工職人さんが多いことです。

「飛騨の匠」と言われる飛騨高山の木工職人は、職人としての強い誇りを持っていると思います。
飛騨の匠たちは奈良時代以降、都に派遣されてその技術で有名な建築物をいろいろ作っていたんですよね。
そういう歴史背景もあって、誇り高い人が多いと感じています。

わたしは湯巡りが大好きなので日帰り温泉によく行くんですが、そこで耳にする話題はやはり東京とは違います。
例えば「イノシシに食われた」とか「そろそろハクビシンが来る」とか、そういう話が多いんですよね。畑を荒らされるって生活に直結することですし、飛騨の人たちは自然と共に生きているという印象を持ちました。
やはり自然との共生という点ではフィンランドと近い感覚があるように感じます。

東京にいたときのことを考えると、日本の伝統的な暮らしに触れている今のこの生活の方が、フィンランドのそれにより近いという感覚がどんどん増しています。

いけかよさんがエラマのワークショップの中で「不便益」という言葉について話していたことがあるんですが、まさに「不便益」がここにあるなぁと感じています。
不便益とは、不便であることにより得られるメリットのこと。
例えば囲炉裏は決してラクなものではないですし、火を起こすのも時間がかかります。正直めんどくさいことです(笑)。
囲炉裏を使うために火消し壺も買いましたし、そもそも家の構造に隙間がないと一酸化中毒になる危険性があります。家には幸い隙間があって、風があると寒い時はつらいですけど、囲炉裏を使う場合にはそれがプラスになるんですよね。
そういう「不便」なことを通じて得られる心地よさって、代え難いものがあるんです。

ゆるゆると語れる、最高の「サードプレイス」を家の中に持ったので、外に飲みに行かなくても豊かな生活になりました(笑)。

不便の中で感じる豊かさ。間違いなく、豊かさは目に見えるものではなくて自分の意識や心の中にあると、今まざまざと体感しています。

心を豊かにしてくれる飛騨のあれこれ

家以外にもお気に入りはもちろんあります。

車の運転ができるようになって国道41号線を通った時に見た景色に感動したんですが、何回見ても飽きないんです。41号線から見える古川町(岐阜県飛騨市)の山々をぜひみなさんに見ていただきたいです!わたしは毎回興奮してしまいます!!(笑)

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どの季節もきれいなんですが、例えば雪のシーズンは単純に山に雪が積もっているから美しいということではなくて、木の葉っぱに粉雪がたまってぐるりとまわっている様子、そんな山が連なっているのが本当にきれいなんです。

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景色だと夕焼けもおすすめです。
海に太陽が沈んでいくような夕焼けは見られない代わりに、高い山に囲まれている地域なので山々が夕焼けの色に赤く染まる絶景を見られます。

先にフィンランドとの共通点をあげましたが、この点に関しては違いますね。フィンランドの場合は山がないので絶対に見ることができない景色です。

もちろん天気に左右されるものですが、その神秘的な美しさは飛騨地方で体験できるのでぜひ見ていただきたいです。

食べ物ではお蕎麦がとても美味しいです。秋が新蕎麦の季節で、新蕎麦祭りが開催されます。昨年は新型コロナの影響で開催されませんでしたが、通常だといろんなお蕎麦屋さんが屋台を出して、収穫したばかりの蕎麦の実で作られた新蕎麦を提供しています。
いいお蕎麦屋さんがたくさんあるので、開催された際には足を運んでみてください。

ガッツリな食事もしたい方でしたら朴葉(ほおば)味噌カツもあります。朴葉味噌というのがこちらでは有名で、朴葉味噌は枯朴葉の上に味噌を乗せて焼いて食べる郷土料理なんですが、朴葉味噌カツも本当に美味しいので機会があればぜひ食べていただきたいです。

フィンランドと似ている点で言えば、どこに行ってもコーヒーがとても美味しいと感じました!

お水が美味しいということがベースにあると思います。深煎りが多いんですが、浅煎りでも嫌な酸味がなくてとっても美味しい。とにかくコーヒーが美味しいところが多すぎます!

こだわりを持って営業されているカフェも多いのでカフェ巡りも楽しいと思います。その中で一つご紹介したいお店が。
櫟-Ichii-」。最高です。

オープンして40年のお店で、飛騨高山の人の中でも「櫟-Ichii-」は特別なカフェです。

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山の上にあるのでお店から臨む景色の素晴らしさに感動しました。
地域で取れたほうれん草を使ったガトーショコラをはじめ、飛騨の名産物を使ったケーキを食べられます。
スタッフさんのプロフェッショナリズムにも心打たれました。

人間の気質っていくつかに分けられると思うんですが、例えば「ミーハー気質」とか「オタク気質」とか「悟り系」とかありますよね。
飛騨高山の人たちは「職人肌系」が多い気がしています。職人気質な人が多いので、ある意味オタク気質とも言えるのかなと。わたしもオタク気質なのですごく楽しいと感じることが多いです。

飛騨高山は五感をフル稼働して楽しめる街

住であれ観光であれ、自分の豊かで幸せな生き方につながることをイメージするのはとても大事です。
飛騨高山には心満たされる体験ができる可能性がいっぱいつまっているので、ぜひ多くの方に来ていただきたいです。観光客が行かないようなところでも、おもしろい場所がたくさんあります。

新型コロナの影響でオンラインやバーチャルが主流になっていますが、自分の五感すべてを直接使える状況を取り戻せる日が待ち遠しいですよね。


By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)

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