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三貫握って心を整える:鯛の昆布〆

現代社会では、効率を重視し、コスパやタイパを優先する生活が当たり前となっています。しかし、そのような生活は心の余裕を奪い、人生の豊かさを見失ってしまうことがあります。

ここで紹介するのは、そんな現代社会への一石、心を整えるための禅を取り入れた寿司づくりです。たった三貫の握り寿司を握ることで、短い時間でも心の静寂リフレッシュを得る方法を提案します。

座って瞑想できないあなたに、別の静寂体験をお届けします。


1.コスパ・タイパに追われる現代人の課題

日常の多忙さの中で効率を最優先にしていると、「今を生きる」という大切な感覚を見失ってしまいます。「 一瞬一瞬を丁寧に生きること」心の静寂をもたらします。これは、タイパやコスパを重視する現代の生活に欠けがちな要素です。抗って何も生産しない時間を作ると落ち着かなくて、これもまた静寂から遠ざかる。現代は八方塞がりです。

2.禅の心で「三貫寿司づくり」

そこで提案するのが、三貫寿司づくりです。

寿司づくりというシンプルであり簡単ではない作業が、心を整え、日常の雑念から解放される瞬間となります。寿司を握る動作に集中しながら、ゆっくりと呼吸し、目の前の作業にのみ意識を向けてみてください。それが禅に通じる「今この瞬間に存在する」ということです。

つくるのは三貫だけです。過剰な行動や結果を求めず、必要最小限の行為に集中します。物事を少なく、シンプルにすることが心の余裕を生み出します。あえて少ない量を作ることで、一つひとつの動作に集中し、日常の中でのスローダウンを実現します。

食事は生存のエネルギーです。寿司は食べれば美味しいことを私たちは知っています。トライするハードルは高くないはずです。

3.実際に試してみよう

の世界へようこそ。禅とは、目を向け意識することです。ここでは、意識するヒントを挙げなら、三貫寿司づくりを解説してきます。握るのは、鯛の昆布〆です。

鯛を昆布〆にする

前日から準備を始めます。乾燥昆布を酒で拭き、鯛の刺身をサクのまま挟み、ラップで包み、重しをし、冷蔵庫に入れます。一晩かけて熟成させます。
◆前日から準備することの意味を考える
◆素材に敬意を払う
◆物事をゆっくりと進める
◆素材に丁寧に触れ、温度や固さ、手触りを意識する

お好みで漬物を作ります。夏なのでゴーヤ。スライスし、塩揉みしておよそ三十分置き、水で洗い、水気を絞って冷蔵庫へ。これも一晩かけて熟成。
◆塩揉みの際に塩の存在を意識する
◆手を洗う際に自分の手の変化を意識する
◆三十分にタイマーを使わない 塩の時間が短くても長くても美味しい仕上がりになります。比べる行為は捨てましょう。

米を炊く

炊飯器での炊飯は難しくない作業です。スムーズにできるはずです。この作業が儀式やルーチンのように、後に続く時間への準備になります。
◆炊飯器の残り時間の表示ではなく、音や臭いを感じ取る 物事を数字ではなく感覚で認識しましょう。数字は人の作り出した概念にすぎず、普遍でも絶対でもありません。

器を選ぶ

三貫と添え物を置く器を選びます。
◆器に置いた寿司を想像する 特別な器である必要はありませんが、想像し自ら選ぶことが大切です。感性が開かれます。器は大きくても小さくても、深くても浅くても構いません。大抵の器は三貫を乗せるために適しています。窮屈でも、広い空間があっても、不思議と三貫にはジャストフィットします。選択の結果は重要ではありません。

鯛を握り寿司の大きさに切り揃える

前日の鯛を冷蔵庫から取り出し、昆布を剥がします。
◆鯛のネバネバを意識する 細くて白い糸が伸びて切れます。

鯛を適度な大きさに切ります。
◆包丁と鯛の触れ合いを意識する 視覚や触覚はもちろんですが、聴覚を忘れずに。
◆切った見た目を気にしない 世の寿司との比較は不要です。何しろ鯛の昆布〆は小さくてもボロボロでも美味しい。恐らく一般人の包丁は、寿司用の刺身を切るのには向きません。水分が抜けて粘つく昆布〆は特に切り難く、思い通りには切れません。ボロボロになったり、破れたりします。それが今の現実です。
ここで注意点。よりよくしようと包丁や技術を追い求めることは間違っています。よりよくを求めるのは現代人の悪い特徴です。自分と寿司だけが存在し、他に比較すべきものはありません。一流も下手もありません。上達もありません。次もないし、前もない。よりよくの比べる概念は捨ててください。
「今この瞬間に存在する」という無我です。

合わせ酢を作る

米1合に対して、酢を大さじ1と1/2杯、砂糖大さじ1杯、酢塩ごく少々の合わせ酢を作ります。カップに酢を入れ、砂糖と塩を入れ、溶けるまで混ぜまます。
◆砂糖の粒を意識する 砂糖の粒のジャリジャリの音や混ぜているスプーンの感覚から、粒が消えてなくなっていく様子を感じてください。砂糖がこの世界に溶け込んでいくとき、自分と自分の周囲の世界との境界も消えます。境界がなくなると自分という感覚が希薄になります。

酢飯を作る

炊き立ての米に合わせ酢を混ぜます。1回小さじ1ほどを目安に、何度にも分けて振りかけて、満遍なく混ぜていきましょう。米を冷ます必要はありません。
◆酢の香を意識する 酢の香から酢飯の香になります。さらに香が変化していきます。その変化は今まさに起きていることです。リアルです。
◆米の艶を意識する 艶を見れば混ざり具合がわかります。
◆米を丁寧に扱う 米の一粒一粒を意識します。米粒を意識できれば、自然と米粒が潰れないように扱います。

握る

さていよいよ握っていきます。
◆呼吸を意識し、自然体でスタートする 例えば、両肩を上下に三度上げ下げし、深く吸って吐いてを二度繰り返し、浅く吸って吐いてを三度繰り返します。そして普通の呼吸に戻しながらスタート。これが自然体です。

水で手を洗い、手を二度叩いて大きな滴を飛ばします。しゃもじで酢飯を適量取り、手のひらの指の付け根あたりに置き、そのまま片手で握って固めます。
◆迷わない 一貫の大きさの制約はありません。一度取った酢飯は戻したりせずにそのままの量で握ります。迷わないことで動作がスムーズになります。しゃもじで取った分を一貫として握る、それは「ただ座るだけ」の座禅の基礎です。
◆心を込めて握る これが最も大切です。

握った酢飯を片方の手で持ったまま、反対の手でその上に鯛を乗せ、そのままその手の指の腹で軽く押しつけて形を整えます。これが良く見る寿司職人の握っている手つきです。
◆鯛と酢飯の調和を意識する 鯛も酢飯も大きさや固さはいつも同じではありません。臨機応変に一体化させます。鯛の昆布〆と酢飯は、その比率がどうであっても、美味しくなります。今の目の前の調和に集中します。

滑らかな動きを心がけて、器に置きます。
◆空気の抵抗や重力を意識し、寿司に器の存在を感じさせない 素人の握った寿司は、丁寧に扱わないと即座に崩れます。崩れるのは空気抵抗や重力の影響です。それを感じ、それをいなしましょう。静寂がどういうことか、場を乱さないということがどういうことか、理解できるはずです。静寂の中では、自らが希薄になっていくことを意識できるはずです。

一貫を握り終えたら、手を良く洗います。米の粘りがなくなるまで洗います。これを怠ると次の寿司は手のひらにべったりとくっついてしまいます。
◆米の粘りを意識する この手洗いという行為は、心をクリアにし、純粋な状態に戻すことを象徴します。それはまるで座禅では毎回、初心に戻ることと同じです。過去の実績も歴史もありません。あるのは今だけです。

以上を繰り返し、三貫を握ります。
◆多くを握ろうとしない 三貫にしてください。多くを求めると、コスパやタイパの世界に逆戻りです。心を込めて三貫、これに従ってください。

相手がいるなら、その人のためにも握る

食事をともにする相手がいる場合は、相手のためにもう三貫を心を込めて握りましょう。シンプルな行為の中に、思いやりが込められます。
◆自分の今をすべて握る

仕上げ

すべてを握り終えたら、各寿司の鯛にごく軽く塩を振ります。指で摘んで擦る感じで散らします。
ここでは食卓で醤油を付けて食べるスタイルはオススメしません。素人の握った寿司はその醤油を付けるという変化に耐えられない可能性が高いのと、食卓で醤油をつける行為は握り寿司に宿した静寂を乱します。
ここで食として成立させておきましょう。

自ら握った三貫の寿司は、シンプルでありながらも美しく、の精神が反映された作品です。食する前に、物として鑑賞する時間を設けるのも一興です。消費される運命の食事を鑑賞する時間は、コスパやタイパの支配している世界では考えにくいものです。これこそが「 一瞬一瞬を丁寧に生きること」です。

鯛の昆布〆 三貫

とはいえ、握りたてを食しましょう。

4.禅で食する

ここまでのプロセスを経験してきていれば、この時点での行動や知覚は必ずや禅的であり、それはつまり心の整いです。今を感じています。今のあらゆるものに自然と意識が向かいます。
最後にもう一歩、禅で食することで深く入っていきます。

箸は使わず、手で食べます。
素人の握った寿司ですので、形状を保つ頼りなさは否めません。その儚さは体感済みですので、自然と優しくゆっくり掴むはずです。相手を思いやり、相手に合わせるという行為は、エゴを手放し、自然の流れに従い、執着や自己主張を超えるための重要な実践となります。

握りたてを食べます。
握りたての寿司は、他では得難い体験です。自分と寿司は一瞬で調和します。自分と寿司の間には境界がなく、自分が希薄になります。それが無我であり、静寂です。

5.「三貫寿司づくり」で心を整える

結果や効率を求めるだけでは、心が疲れてしまうことがあります。あえて時間をかけ、素人が少ない量の寿司を丁寧に握ることで、「今ここにいる」ことを実感しましょう。禅の心で、あなたの生活に新たなリズムを取り入れてみてください。
相手がいる場合は、その人のために寿司を握ることで、共に豊かな瞬間を分かち合うことができます。これ以上の幸せがあるでしょうか。

slow down your world

次の食事に三貫寿司づくりを試してみませんか?
もしそれが難しければ、同程度に些細なことに丁寧に取り組む時間を作ってみませんか。何か一つの行動に集中することは、心を整える効果があります。必ずしも鯛の昆布〆である必要はなく、必ずしも握り寿司三貫である必要はありません。
面白い取り組みがあればぜひ私にもシェアしてください。

心を整えてください。人生の豊かさを見失わないでください。
そのために、slow down your worldです。


参考1 今回の酢

今回、私が使った酢は富士酢です。この三貫握って心を整える中で何かにこだわるとすれば、それはです。酢が上等であれば、寿司の失敗はゼロです。酢飯はシンプルに美味しいですので。
富士酢は私のベスト寿司酢です。特に酢飯が冷めていくに従って変化していく様は、脳や体や細胞の普段は全く使っていない部分を刺激します。

参考2 Zen Eating

禅的に食べることに関しては、より専門的な取り組みがあります。
リスペクトとともに載せておきます。