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■ 其の295 ■ 国語・文章の魅力

📙好きな漫画やアニメやゲームのことで、自分は△△△で生き方を学んだとか、○○○を知らないなんて人生の半分を損しているなんて言う人がいます。 
わたしはそれらに夢中になったことはないですが、言っている意味はわかる気がします。
 漫画やアニメの登場人物やストーリーから、友情、絆、成長、生きる意味、生き様、人生哲学などを学んだというのはイメージできます。
 またゲームを通じて、上達や達成感、成長実感、人とのつながりなどを感じるというのも理解できます。
 そうした体験を抜きに、今の自分は無いと思えるほどプラスの影響を受けたということでしょう。

📙だとすると、国語で「文章」を読むこともまるで同じです。
 そこには生きる上でプラスに働く様々なことが書かれています。
 源氏物語は千年前、古事記は千三百年前に書かれ、消えることなく今に読みつがれています。これら千年にわたって読み継がれてきた古典から、近年の雑誌や新聞に至るまで、そこに書かれた「文章」の内容は膨大で多岐にわたります。人間の経験や思考のほとんどだと言っても良いでしょう。 
 一方で、手塚治虫さんが鉄腕アトムを描きはじめたのは70年ほど前。インベーダーゲームが生まれたのは45年ほど前。それ以降生み出されてきた作品や商品の進化は相当なものです。

 とすると漫画やアニメやゲームは、「文章」に書かれている人間の思考から、ビジュアルとしてスピンオフして生まれたとも言えるでしょう。
 両者は、「母体」と「枝分かれした物」の関係です。さながら本社と花形のニューヨーク支店のような関係かもしれません。
 別物でも、相反するものでもありません。漫画、アニメ、ゲームを創った人達の思考の基盤は、「文章」の世界の中にあります。

📙ですから、本なんて読まないとか、「文章」って面倒くさいと言う中高生でも、きっかけがあると集中し夢中で文章を読み出すことがあります。
 漫画、アニメ、ゲームといったビジュアル作品の中では触れることはなかったけれど、心をひかれる別の世界を知れるからです。

 
📙では、中学一年のと二年の東京書籍の教科書の文章を見てみましょう。

  ❶ タイトル:話し方はどうかな   筆者:元NHKアナウンサーの川上裕之さん 

 いちばん聞きやすい速さとはどれくらいでしょうか。一分間に三百字が基準です。これは長い間の放送の経験を通じての結論です。時計の秒針を見ながら、次の文章を声に出して読んでみましょう。

 続いて気象情報です。気象庁の観測によりますと、千島列島付近では低気圧が猛烈に発達しています。一方、中国大陸には優勢な高気圧があって、日本付近は強い冬型の気圧配置となっています。上空およそ五千五百メートルには氷点下三十度以下の強い寒気が入っており、日本海側の各地では、これから明日の朝にかけて大雪の恐れがあります。特に、東北地方の日本海側から北陸地方にかけては、多い所で七十センチから一メートルの大雪となる所があるでしょう。太平洋側の各地では晴れる所が多くなりますが、空気が非常に乾燥していますので、火の取り扱いには十分ご注意ください。あさってからは、暖かい日と寒い日が交互に現われるようになるでしょう。

 これを一分間で読むのです。この速さを練習してください。ゆっくりだなあ、あるいは、速いなあと感じるでしょうが、とにかく、この速さをつかんでください。
 
 
 ❷ タイトル:辞書に描かれたもの  筆者:小説家の澤西祐典ゆうてんさん

 上野は辞書を熱心に読んでいた。見るからに古く、年季の入った辞書だった。四隅がぼろぼろで、ページも手あかで黒ずんでいた。箱もなく、白かったであろう表紙はねずみ色といっていいぐらいにくすんで、金色の題字は剥がれてほとんど残っていない。しかしそんな辞書とは対照的に、それを読む上野の目はらんらんと輝いていた。彼の目に私の姿は少しも映っておらず、私は不思議といらだちを覚え、気がついたときには乱暴な言葉を発していた。
 「おまえ、汚い辞書使ってんな。」
言葉が舌の上を通り抜けた瞬間から、激しい後悔が襲った。確かに上野の使っている辞書は、お世辞にもきれいとは言いがたい代物だった。だからといって、ほかにいくらでも言いようがあっただろう。私は自分の声が周りに聞こえていることも十分に意識していた。おまえ、汚い辞書使ってんな。鼓動が激しくなる中、顔を上げた上野と目が合った。つぶらな、大きな目だった。こちらをじっと見つめ返しながら彼は言った。
「うん、母さんがくれたんだ。大学のときに買ってもらった辞書なんだって。」
 屈託もてらいもない言い方だった。

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