見出し画像

あらためて、発掘工。

晴れたら、あっちに富士山が見えるのよ...
この前は、ここからネズミがでてきてね...
年末調整もらってくださーい...!
健康診断で血圧がたかめでさ...
今日も安全第一でよろしくお願いしますっ!

お昼の休憩時間は
外でコンビニ弁当を食べて。
近くの中学校から流れるチャイムを聴きながら
広く大きな空をながめて
深くふかく、息を吸う。

エンジンをとめて、すっかり静かになったユンボの中で、お昼寝してる親方たちの
なんと気持ち良さそうなこと。
どんな眺めなんだろう
どんな乗り心地なんだろう

僕のおじいちゃんのように
腰をちょこっと曲げながらも
歩みは軽やかなリズムで
どこか愛嬌がある先輩たち。

頭に巻いた白いタオル。
よれて泥だらけになった
淡い緑のワークパンツ。

「生き様」とまでは言わずとも
細く引き締まった筋肉と
焼けた肌に深く入ったシワが本当にかっこいい。
古びたサンダルから出る、すり足の音は
時に、剣豪のような緊張感すら醸している。

形は違えど、僕もこんな風に歳を重ねたいなと願う。少しずつ。いろんなことを経験しながら。

かたや
僕のお母さんのように
首にタオルを巻きながら
「昔はアタック25に回答者で出たのよ
アタックチャンス正解したんだ」とご婦人

めちゃいい経験ですね!って言ったら
「たぶん、あなたがまだ生まれる前のことよ」
って。
生前の児玉清さんに会ったなんて、いいなぁ。

プレハブ小屋で休憩して、そんな話をしながら
気さくな先輩方と遺跡を掘り進める。

せっせと
せっせと
土を削って。
穴を掘って。

数百年前の人々の生活
その痕跡を浮かび上がらせる。

かつての人が堀ったように
土の"質感"の境目を辿る。
手に伝わる土の感覚が心地よい。

ただ、黙々と。
自分が土を掻き出す音が耳に響く。

背後では大きなダンプカーとユンボが
重低音を響かせて駆動する。

時に江戸時代の器や、
稀に縄文土器なども出土するらしい。
心躍らせながらも
お仕事として、慎重に。慎重に。

念入りに肩を回し、腰をそらせて
体操を繰り返す。
鋤簾の作業は腰にくる。

日本の古いもんぺを履いて
ドイツの蚤の市で出会った靴をお供に
スイス軍山岳部隊のスモックをかぶる。
それが僕の仕事着。

なんとワクワクすることか。
自分が選んだ服を纏って仕事ができる。
自分が選んだ仕事ができる。

仕事姿は農村を写す絵画のごとく。

ただそれだけで
今日の"一日"が
命に沁みわたるように響く。

先輩方はワークマンやユニクロなどを装備しているので、僕の服をもの珍しそうに眺める。
興味をもってくれて、僕の"ものがたり"が始まる。
そんなコミュニケーションも嬉しい。

一日朝から夕方まで働けば
すっかり服は、よごれる。
でも、少しずつ育ってゆく。
僕の日々を重ねるように。

どんな理由があって
どんな経緯があって
なぜここで働いているのか。

それぞれにそれぞれの背景があるけど
そんなこと聞かなくても
聞いたとしても

ただ目の前の仕事と丁寧に向き合う。
結局は、そこに生きている証がある。

その一日を経た時を
僕自身が味わうこと。
僕の服の味になること。

それは、遺跡発掘のお仕事。

僕は新しいアルバイトをはじめた。
でも、失業してしばらくの無職だった時と
やっていることは変わらない。

自分の足で歩む。
その一歩を味わう。

生活を教育(ボレロ)する。

僕にとって「善い」とはなにかを
問い続けている。問い続けてゆく。

まず二日。やってみて感じたこと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お読みいただき、ありがとうございます。

有料ラインは一番最後に設定しているので、全文無料でご覧いただいております。

お読みいただいて、もしよろしければ、ご支援のほどよろしくお願いします。

Youtube @eiichi bolero 「くさまくらのボレロ」

standfm,「ひととなりのボレロ」

Instagram@eiichitani_bolero

などでも活動しております。

各アカウントのプロフィール欄からもご覧いただけます。


ここから先は

55字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?