映画「典子は、今」と探究授業実践
探求の授業でボランティア実践を行っている。ボランティア活動を通じて、人権意識や共生社会について考えて欲しい。
授業初期ではインプットを重視して行い、今回はその一部を公開する。
基本はメモや問いを事前に与え、映画を漫然と観させないことが大事である。テーマや視点を持って作品を見る癖をつけさせたい。
メモ欄や問いはスクールタクトに記入させる。後でグループ間で記述を見合って意見交換をするためである。もちろん紙に記録させて、グループで話す時間を設けても良い。
感動ポルノになってはいけない
生徒の感想からはともすれば「典子さんの生き方に感動した」という意見があるかもしれない。もちろんその意見を否定することはできない。実際にそう感じたのだから。
教師にできるのは、その感動の意味を考えさせることである。なぜ、障がいを持つ典子さんの生活に自分が感動したのか?を言語化する機会を与える。
「障がい者が健常者を感動させるモノとして消費されている」と言われている。障害者は、健常者を感動させるためにいるわけではない。もちろん今回の映画は古い映画であり、感動ポルノという言葉が存在しない時代のものであるので、そう感じてしまうのも無理はない。
ただ感動の背景には、障がい者に不便を強いている社会があることに気がつく必要がある。障がい者に優しくない社会だからこそ、苦難を乗り越えようとする障がい者の姿に感動してしまうのだ。感動をキッカケに社会のあり方を見つめ直してほしい。
障がいによって不便になる社会から、障がいがあっても不便でない社会へ
バリアフリーの視点を獲得する。
映画の中では、障がいによって物理的に生活に不便をきたすシーンがある。それらは社会のあり方を変えれば、たとえ障がいがあっても不便でなくなることに気づかせる。私たち健常者が自分たちの利用しやすさだけで社会を作ってきてしまったことを考え直す。
例えば切符の購入は、両腕のない典子にはボタンを押すことができない。タッチパネルになった今でも根本的には変わっていないことへの気づきがあるかもしれない。
古い映画であることがいい意味で効いてくる。生徒には映画内で描かれていた典子が不便を感じた点をメモさせ、グループで共有させる?
心のバリアフリーについて考える
バリアフリーは物理的なのもに限らない。健常者の心構えや態度によることに気づかせる。
例えば駅でバッグを落とした典子さんがバッグを拾いたくても、人の流れの速さによって拾えないでいる。バッグを拾ってくれず無視する周囲の人と、バッグを拾ってくれる人。
典子さんが障がいを持っていようがいまいが、落とし物をした人がいたら、手伝ってあげる、あるいは自分自身が手伝ってもらえる社会を目指したい。
社会的弱者に優しい社会
生徒の意見の中には、健常者が頑張って社会的弱者を支えなければいけない。との意見もある。
違うそうじゃない。生徒の意見は基本否定しないが、健常者と社会的弱者の関係を支援する者と支援される者でとらえるべきでない。
そう捉えると健常者が我慢して障がい者を支えるという無理が生じてくる。いや実際の世の中は残念ながらそうなっている側面もあるかもしれない。だから障がい者を支えることが憚られるのではないか。
そうではなく、健常者も障がい者も生きやすい社会を作っていく必要がある。
私たちも車の事故などで後天的に障がいを持つことがあるかもしれない。先天的な障がいよりも後天的障がいの方がずっと生きにくさを感じるだろうと容易に想像できる。
障がい者に優しい社会を作ることは健常者にとっても利益のあることなのだ。
支えられる存在の心理を考える
上述のように支える側と支えられる側が固定化して語られるべきではない。時に支える側に立つこともあれば、支えられる側になることもある。
障がい者を常に支えるべき弱者として捉えたとしたら、彼らの自尊心を傷つける可能性もあるだろう。
典子さんは実際、仕事につき社会に貢献し、結婚もして誰かの支えになる人生を送っている。当然、誰かに支えてもらえながらでもある。
人に頼らないことが自律なのか?
この映画は障がいを持つ典子が母親からの自律に向けた大きな一歩を描いている。
母親から離れて1人で遠出し、いつのまにか娘が親から自律していることに気づかされる。典子ももちろん街中で悪戦苦闘しながら自分1人でやりとげるが、その道中では人に助けられるシーンも描かれている。つまり今までは親に頼っていたことが自分の力と社会の助けを得て目的を達成するわけである。
自律という言葉が勘違いを生むのは誰の助けを得てはいけないと思い込んでしまうことである。自律とは必要に応じて人の助けを求めながら生きていくことを意味しているように思う。
ノーマライゼーンションの視点の獲得
バリアフリーの視座獲得から、障がいの有無と支援する側される側の構造について社会のあり方について話を展開した。障がいがあっても「ふつう」に生きていくことができる社会に向かって、私たちは歩んでいる。というノーマライゼーションの視座を獲得させたい。
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