『幻象機械』
山田正紀、『幻象機械』中公文庫。
文庫版、1990年10月10日発行。
【日本人に特異的な右脳と左脳の機能差研究から、無中枢コンピューターを構想する大学助手。彼が父の遺品に石川啄木の未発表小説を発見した時、我々の脳に刻印されていた禁忌の謎が次第に明らかに・・日本人の正体に気付いてしまった啄木の、そして彼の運命は】
といったもので。
作中に『父の杖』という啄木の小説とされるものがあるのだけれど、これも山田正紀の創作だという。
ここでは、この小説のことよりも、石川啄木の短歌にふれたい。
幻想的というか、ミステリー的な内容で、中味を明らかににしてしまうのは興をそいでしまうと思うから。
ただ、『神狩り』でデビューし、『弥勒戦争』や『神々の埋葬』など、神をテーマにしたものをいくつも書いている作家とすれば、こういう小説を書くのはむしろ必然だったかもしれない、と思えるよな内容。
石川啄木の短歌は有名なものがいくつもある。
『戯れに母をせおいてそのあまり軽ろきになきて三歩あゆまず
東海の小島の磯の白砂に我なきぬれて蟹とたわむる
働けど働けどなお我が暮らし楽にならざりじっと手をみる
友がみな我より偉くみゆるひよ花を買いきて妻としたしむ 』
などなど。
27歳で亡くなっていることを思うと、その感性の凄さに圧倒されてしまう。
そうして。
これら以外にあるのが、 『幻象機械』に収録されているものだ。
『落日の山の麓に横たはる活きしことなき神の屍
はてもなき廣野の草のただ中の髑髏を貫きて赤き百合咲く
青ざめし大いなる顔ただ一つ空にうかべり秋の夜の海
大いなるいと大いなる黒きもの家を潰して転がりてゆく
物みなにことごとく一つづつ眼ありて我をつくづくとみる
かく弱きわれを活かさず殺さざる姿もみせぬ残忍の敵 』
など。
‥‥‥………
もしも、啄木に絵描きの才あらば・・マグリットやダリに比肩したかもしれない。?
もしも、 後半の短歌が山田正紀の作だったりしたら・・?
(◎-◎;)
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