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脇役陣の層の厚みが主演ふたりを盛り立てる 『夜明けのすべて』

2月9日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 藤沢美砂にはPMS(月経前症候群)という持病がある。生理前になると感情が大きく揺れ動いて、自分ではまったく制御できなくなる。このせいで周囲の人間関係はぼろぼろ。周囲から怪訝な目で見られるだけでなく、警察沙汰になったこともある。学校を卒業して勤め始めた会社も、この病気のせいですぐに辞めざるを得なかった。

 それから5年後。美砂は東京近郊の小さな理科教材メーカーで働いている。少人数の家庭的な雰囲気で、美砂の病気に対しても理解があり、フォローもしてくれるいい職場だ。

 そんな会社で、山添孝俊という青年が働き始めた。もともとは別の会社でバリバリ仕事をこなしていた孝俊だったが、パニック障害の発作が出るようになって仕事ができなくなり、社長の紹介で仕事を一時的に仕事を変わったのだ。淡々と仕事をこなしながら、周囲に壁を作って孤立している孝俊。彼はある日、職場でパニック障害の発作が起きて動けなくなってしまう。

■感想・レビュー

 良い映画だと思う。取り立てて目立つことのない地味で控え目な若い女性と、同じように目立つことのない地味で控え目な若い男性が出会い、互いの病気を理解しようと務めながら、仕事仲間や同僚という職場の境界を少し越えて支え合い、それぞれが前に進んで行く。

 主人公たちの関係性を、友情でも恋愛関係でもないところに置こうとするのが面白い。おそらくこれが本作の一番のポイントで、これが成功していると見るかどうかが、この映画の評価に直結すると思う。僕はこの点について「ぎりぎり成功している」と見るが、主人公たちから友情や恋愛の匂いを感じ取り、そのどちらにも着地しない結末に戸惑ったり、物足りなさを感じる人も多いと思う。

 これは商業映画の宿命かもしれないが、主演を上白石萌音と松村北斗にしている時点で、ここから「恋愛要素」のニオイを完全に排除するのは難しくなってしまったのだ。この人たちは、「カムカムエヴリバディ」で夫婦を演じてたカップルですよ? それが映画でまた共演して親しい関係を演じれば、本人達がいかにそれを否定しても、観客は否応なしにそれを感じ取ってしまうのだ。映画には最初から最後まで、二人がかもす「恋の予感」の空気が濃厚に立ちこめている。

 しかしそれでも僕がここに「ぎりぎりの成立」を感じるのは、脚本の上手さや主演ふたりの好演がまずあるからだ。美砂が孝俊の目の前で、袋に残ったスナック菓子の残りを、ざらざらと口に流し込む場面がいい。

 周囲を支える競演陣の芝居の厚みも、物語の世界をしっかり支えている。光石研と渋川清彦の上手さ。母親役のりょうも良かったし、宮川一朗太や丘みつ子のワンポイント出演も画面を引き締めて贅沢なものにしている。特に光石研が演じる教材会社社長のキャラクターは、他の周辺人物より少し深く掘り下げてあり、若い二人の物語とほとんど接点のないところで、映画を背後から支える重要なものになっている。

TOHOシネマズ日本橋(スクリーン3)にて 
配給:バンダイナムコフィルムワークス、アスミック・エース 
2024年|1時間59分|日本|カラー 
公式HP:https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt26731970/

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