悪の組織から子供を救う正義ヒーロー登場! 『サウンド・オブ・フリーダム』
■あらすじ
アメリカ国土安全保障省の捜査官ティム・バラードの仕事は、違法な児童ポルノの取り締まりだ。国内外で流通する児童ポルノの販売ルートをたどり、小児性愛者を逮捕する。
いつものことだが、押収した証拠品を調査するのは気が滅入る。そこには大人たちから性虐待を受けている子供の姿があるからだ。ティムはその子供たちに、何もしてやることができない。
ティムは逮捕した児童ポルノ業者から、アメリカ国内にも根を張る児童人身売買ルートをたどっていく。児童売買の供給源は中南米だ。ティムは誘拐されてアメリカに売り渡された幼い少年の救出に成功し、同時に誘拐された少年の姉を救出するため南米コロンビアに渡る。
そこで待っていたパンピロという中年男は、かつて麻薬カルテルの大物だったが、今は児童売買組織から秘かに子供たちを救出する仕事をしている。ティムとバンピロは、大掛かりなおとり捜査で大量の子供を保護する作戦を思いついた……。
■感想・レビュー
国際的な児童人身売買に反対するNPO「オペレーション・アンダーグラウンド・レイルロード(OUR)」の創設者で元CEO、ティム・バラードをモデルにした実録犯罪スリラー映画だ。主人公のティムを演じるのはジム・カヴィーゼル。監督はメキシコ出身で、日本では『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』(2014)が公開されているアレハンドロ・モンテベルデ。
日本では公式ホームページ経由でチケットを無料配布している映画だが、それはこの映画がOURの自己宣伝映画だからだと思う。ただし映画の主人公であるティム・バラードは、映画製作後に性的暴行容疑でOURを解任されてしまったらしい。実録とはいえ映画はあくまでもフィクション。現実のティム・バラードは、映画に登場するティム・バラードほどには高潔な男ではなかったようだ。
肝心の映画のデキだが、僕はあまり感心しなかった。現実の犯罪を憎み、それと戦う物語であるにも関わらず、この映画には犯罪が生み出す「痛み」が描かれていない。子供を誘拐される父親の苦悩も、誘拐され虐待された子供のおぞましい経験も、ここでは実体なき記号に過ぎない。
PR目的の映画をより広い範囲に観てもらうために、暴力描写をマイルドにしなければならない制約は当然ある。だがこの映画は誘拐される側、犯罪に巻き込まれる人々を、ひたすら「弱くて無力で愚かな人々」として描き、そこから子供を救おうとするティムを「子供を救う正義のヒーロー」として描くだけだ。
正義は正義で、悪は悪でしかない。こうした一面的な人物ばかりでは、物語に奥行きが出てこない。最近では子供向けの特撮番組やアニメでも、もう少し悪役や周辺人物のキャラクターが深掘りされて、全体として豊かな陰影のあるドラマが作られているはずだ。
Qアノンとの関係が取り沙汰されている作品でもあるが、映画自体から陰謀論のにおいはしない。一番の問題はつまらないことだ。
(原題:Sound of Freedom)
TOHOシネマズ シャンテ(スクリーン1)にて
配給:ハーク 配給協力:FLICKK
2023年|2時間11分|アメリカ|カラー
公式HP:https://hark3.com/freedom/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt7599146/