人生を変えた数日間の出来事 『国境ナイトクルージング』
■あらすじ
知り合いの結婚式に出席するため、吉林省延吉にやって来たハオフォンは、上海に戻る前にほんの気まぐれで日帰りの観光バスツアーに参加する。だが戻ってくると、どこかでスマホを紛失していた。困った。今どきスマホがないと、ちょっとした買物もできなくなってしまう。
バスガイドのナナは自分のツアーでスマホをなくしたハオフォンに同情し、彼を夜の延吉市内観光に連れ出す。地元民しか知らない、夜の街の探索だ。これにはナナと親しいシャオも合流した。
しこたま飲んだ三人だったが、結局このことが原因でハオフォンは翌日寝過ごし、帰るはずの飛行機を逃してしまう。ならば帰るのを数日延ばせばいい。こうして男ふたりに女ひとり、三人の青年たちによる数日間の休暇がはじまる。
三人で郊外にドライブし、遅くに街に戻った三人。ハオフォンはナナの部屋に転がり込み、義務を果たすように肉体関係を持つ。シャオはナナに好意を持っていたのだが……。
■感想・レビュー
ふとしたきっかけで出会った三人の青年が、たった数日間の交流を持つ。それは三人それぞれの人生を変えるような変化をもたらすのだが、三人はそれ以上に親しくなるわけでも反発し合うわけでもないまま離れ離れになってしまう。人間同士の出会いと別れの不思議さを、延吉や周辺の風景を織り込みながら描いた青春ドラマだ。
ナナを演じたチョウ・ドンユイは『少年の君』(2019)に主演していたのだが、僕はもうすっかり忘れていた。美人というわけではないし、特別かわいいというわけではないと思うが、この普通さが彼女の良いところなのだと思う。
ハオフォン役のリウ・ハオロンは『唐人街探偵』シリーズ(2015・2018・2020)のレギュラーで、日本では『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2017)も公開されているが、僕は今回が初めて。最初に「成田凌に似てるな」と思ったら、映画の最後まで成田凌にしか見えなくなってしまった。困った。
シャオ役のチュー・チューシャオは『あなたがここにいてほしい」(2021)が日本でも公開済み。笑顔の雰囲気が駿河太郎に似た好青年だ。
映画の魅力は延吉の凍てついた風景と、登場人物たちが心の内に秘めた熱い気持ちとのコントラストだと思う。心の内の気持ちは外部に吐露されることはない。しかし地中のマグマのように熱くたぎり、出口を求め渦巻いている。それをきちんと映画を観る者に伝えているのが、この映画の素晴らしいところだ。
主人公たち三人は、もともと別の道に進んで行くはずだったのだと思う。それがいろいろな理由で、延吉で足止めされている。わかりやすいのは帰りの飛行機に乗り損ねたハオフォンだが、フィギュアスケートの選手からケガで引退したナナにしろ、あてもなく故郷を飛び出したあと叔母のもとで料理人をしているシャオにしろ、延吉での時間はあくまでも一時的な滞在でしかなかった。青春は立ち止まらないのだ。
(原題:燃冬 The Breaking Ice)
ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター1)にて
配給:アルバトロス・フィルム
2023年|1時間40分|中国、シンガポール|カラー
公式HP:https://kokkyou-night.com/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt17052842/