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キラキラゆる〜い青春音楽アニメ 『きみの色』

8月30日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 地方のカトリック女子高に通う日暮トツ子は、子供の頃から人の姿がさまざまな「色」に見える。彼女が学校でも一番きれいだと感じる色は、同じ学校に通う作永きみの鮮やかなブルーだ。だが彼女はある日突然、学校を中退してしまった。

 トツ子はわずかな手がかりから、きみを探して街の中の書店巡りを始める。やがて小さな古本屋できみを探し当てたトツ子は、たまたま店に来た男子高校生の影平ルイと3人でバンドを組むことになった。練習場所は、ルイが暮らす離島の古びた教会堂だ。

 きみは一緒に暮らしている祖母に、自分が学校をやめたことをまだ話せずにいる。ルイも自分の音楽活動について、母には内緒にしている。家族が自分にかける期待を裏切っているのが辛いのだ。

 バスが苦手なトツ子は修学旅行を仮病でサボり、留守になった寮にきみを招き入れる。ところがこれがすぐ学校にバレてしまい、トツ子たちはルイの島にしばらく行けなくなってしまった。

■感想・レビュー

 『けいおん!』や『聲の形』でもコンビを組んだ山田尚子監督と脚本の吉田玲子が、オリジナルストーリーで作り上げた長編アニメーション映画。ひょんなきっかけでバンドを組むことになった高3の少年少女たちが、学園祭のステージで楽曲を発表するまでを描いた物語だ。

 物語の「ゆるさ」が、この映画の不思議な魅力だと思う。この映画は「こうなるのかな?」という観客の予想と期待をとんどん裏切り、明確な着地点がないまま緩やかに滑空し続ける。ストーリーの核になりそうなモチーフやキーワードに深くコミットせず、フワフワと軽やかにドラマが進行していくのだ。

 例えば映画の冒頭から紹介されている、トツ子の「人の色が見える」という話は、「他人の色は見えるけど自分のは見えない」という話を挟みつつ、だからどうしたというわけでもないまま映画の最後までそのまま引っ張られる。きみが突然学校をやめた理由は結局よくわからないし、ルイの自宅にあった写真に写っていた人物のことも、直接は言及されないままに終わる。なんとなく相思相愛ぽいきみとルイの関係性も、恋愛話に点火する前に終ってしまう。

 すべてが煮えきらない。生ぬるい。脇エピソードの線が細い。中途半端だ。

 だからといって、この映画が言葉足らず、説明不足、物足りないということではない。この映画はこのままで十分に豊かなのだ。この映画は劇中で直接描かれないことを通して、映画に描かれていることを立体的に浮かび上がらせる。それはそれで、面白い構成の映画だと思う。

 舞台になっている学校や街は特に地域を限定していないが、モチーフになっているのは長崎らしい。日本でも有数のカトリック文化圏だ。ミッション系の学校はスタッフも生徒も実際の信者が少ないのだが、この作品で舞台になっているのは女子修道会が運営している学校で、校内には大勢シスターがいる。主人公たち3人メンバーの中では、トツ子だけが信者のようだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(4スクリーン)にて
配給:東宝
2024年|1時間40分|日本|カラー
公式HP:https://kiminoiro.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt23951384/

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