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東北愛が詰まったクドカン流の飯テロ映画 『サンセット・サンライズ』


サンセット・サンライズ
2025年1月17日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 2020年春。東京の電気機器メーカーに勤める西尾晋作は、新型コロナの流行で仕事がリモート勤務になったのを機に、宮城県に引っ越すことにした。築9年の一軒家で4LDK。家具も全部揃っているが、いままでまだ誰も入居したことがないという空き家だ。家賃は破格の月6万円。

 釣り好きの晋作はいても立ってもいられず現地に飛んでいくが、この時期の地方は都会から新型コロナが持ち込み恐れて非常にナーバスになっている。大家でもある町役場の職員・関野百香は、東京から来た晋作に2週間の自主隔離を命じた。

 だが晋作の釣り好きの虫は抑えられない。釣り具を持って出歩いていれば、どうしても周辺住民の目に留まる。晋作はこの間に、怪しいよそ者としてすっかり周辺住民に認知されてしまったのだ。そして自主隔離明け……。

 晋作は持ち前の明るく社交的な性格で、すっかり地元に馴染んでいた。そしてこの東北移住は、晋作の新たな仕事に結びつく。

■感想・レビュー

 楡周平の同名小説を原作に、岸善幸監督が宮藤官九郎の脚本で描く、心温まるコメディ映画。主演は菅田将暉と井上真央。東日本大震災の傷跡を描いている点で、これは岸監督にとっては「ラジオ」(2013)の、宮藤官九郎にとっては「あまちゃん」(2013)の延長上にある作品なのかもしれない。

 映画の舞台になっている宇田濱町は架空の町だが、ロケは気仙沼や大船渡で行われたとのこと。日本中が新型コロナに震え上がっていた2020年春頃からスタートする物語なのだが、映画に登場する日本社会の恐慌状態は、今になってみると滑稽にも思えるぐらい大げさ。しかし当時はこれがリアルだったのだから、何やら遠い昔話のようにも感じられる。

 映画の中に「コロナ禍」の日本社会を取り入れた作品はいくつか作られているが、この映画もそうした作品の一つとして、今後は時代風俗を描くサンプルのように扱われるかもしれない。

 原作未読だが、小説では地方の過疎化や高齢化、空き家問題などが大きなテーマになっているようだ。映画でもそれは取り上げられているのだが、それよりも大きなウェイトがかけられているのは、三陸の海の幸と山の幸だと思う。同時期に映画館では『劇場版 孤独のグルメ』がかかっているが、「飯テロ」ならこちらの映画も負けていない。

 地元居酒屋で晋作に振る舞われる新鮮な海鮮料理の数々は、そのまま映画館を飛び出して東北行きの新幹線に飛び込んでしまいたくなるような迫力と説得力がある。リモート飲み会で晋作が自慢する肴の数々も、百香の家で彼が振る舞われる料理も、すべてが美味そうなのだ。物語のクライマックスは芋煮会。この映画の主役は、こうした「料理そのもの」だと言っても過言ではないと思う。

 そんなわけで料理が登場する場面はいちいち素晴らしかったのだが、物語の方が少々お留守になっている気がする。悪くはないが、全体に焦点が甘くてボンヤリした印象なのだ。

109シネマズ木場(シアター4)にて 
配給:ワーナー・ブラザース映画 
2024年|2時間19分|二本|カラー 
公式HP:https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt34420683/

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