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作り手の意図が見えないアニメ版 『がんばっていきまっしょい』

10月25日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 愛媛県松山市の進学校・三津東高校には、年に一度の伝統となっているボート競技クラス対抗戦がある。2年生の村上悦子(悦ネエ)も競技に出たが、レース半ばで最下位が決定すると、オールを漕ぐ手が止まってしまった。一生懸命がんばることに、意味を見出せなかったのだ。

 だがこのレースの様子を見て、ぜひボート部に入部したいと願ったのが、転校生の高橋梨衣奈(リー)だ。彼女は学校に女子ボート部がないと知ると、悦子やその幼なじみ佐伯姫(ヒメ)を誘って一緒にボート部を作ってほしいと頼み込む。これにどういうわけか、他のクラスの兵藤妙子(ダッコ)と井本真優美(イモッチ)も加わった。新生女子ボート部の誕生だ。

 唯一の男子ボート部員二宮隼人や顧問教師の助言を得ながら、よちよち歩きで活動をはじめた女子ボート部。だが初めて出場した大会はボートが真っ直ぐ進まない体たらくで当然最下位。しかしこれが、部員たちの気持ちに火を付ける。

■感想・レビュー

 1995年に松山市主催の坊っちゃん文学賞を受賞を受賞した敷村良子の同名小説は、1998年に磯村一路監督が田中麗奈主演で映画化。その後、この映画に感動したドラマプロデューサーの企画で、2005年に鈴木杏と錦戸亮主演のドラマ版が作られている。今回は3回目の映像化で、初のアニメーション化だ。

 しかし残念ながら、僕は今回の映画に「今この物語を新しい映像作品にする意義」を感じられなかった。時代に即した映画にしろという意味ではない。このアニメ版は、何が狙いなんだろう。観客に見てもらうべきセールスポイントは何だろう。どこが見どころなんだろう。僕にはそれがさっぱりわからない。

 物語の流れは、最初の映画版と基本的には同じだ。時代背景を現代にするとか、主人公の悦子に新しいバックストーリーを用意するとか、女子ボート部結成までの経緯が異なるなど、新しいことはいろいろやっているのだが、流れは同じ。

 ボート部ができて主人公たち五人が集まり、もたもたしながら着実に力を付けて、最後の大会では優勝に絡むいい勝負をする。少女たちの友情があり、挫折がある。1時間半のコンパクトな映画だが、主人公を持ち上げたり落としたりする時間配分も適切。それなりにまとまった作品になっているのだ。

 しかしこれは「まとまった作品=破綻がない」ぐらいの意味であって、この映画が素晴らしいとか良い映画だとか言いたいわけではない。磯村一路の実写映画は傑作だった。時代を超えたスポーツ青春映画の名作として、今後も語り継がれていくに違いない。だが同じ素材を後から作るなら、その先行作品に対して「これは負けない」という何かを狙ってほしい。それはこの映画にあるんだろうか?

 残念だが、僕にそれは見えない。この映画を製作公開するなら、実写版の4Kリマスター版を作ってリバイバル上映した方がいいと思う。四半世紀以上前の映画だが、そっちは今でも感動するはずだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(11スクリーン)にて 
配給:松竹 
2024年|1時間35分|日本|カラー 
公式HP:https://sh-anime.shochiku.co.jp/ganbatte-anime/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt33311726/

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