少年と少女の忘れがたい一夏の体験 『ゴールド・ボーイ』
■あらすじ
数多くの企業経営で沖縄経済を支える東一族の当主と夫人が、崖から転落死した。現場にいた娘婿・東昇の証言に不自然なところもなく、警察はこの件を事故として処理。だがこれは東昇による、計画的な殺人だった。
近くの中学に通う中学生・安室朝陽は、幼なじみの上間浩とその妹の夏月と一緒に近くの海辺で写真を撮っていたとき、この現場をたまたま動画撮影してしまう。ニュースを見た3人は、犯人が東昇であることを悟る。
「この動画はお金になるかもしれない」
3人はそれぞれの家庭に問題を抱えていて、それはどれもある程度まとまった金さえあれば解決しそうだった。彼らは東昇に会いに行き、3人に2千万ずつ、計6千万円の金を要求する。最初は愛想笑いしていた東も、動かぬ証拠を突きつけられれば笑いが消える。
だが今の東には自分の自由になる金がない。義父母の遺産相続人は、東の妻だからだ。その静は、自分に対する昇の殺意を感じ取っていた。
■感想・レビュー
中国の人気作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)の小説「悪童たち」を、金子修介監督が日本に翻案して映画化した作品。同じ原作は中国で2020年に「バッド・キッズ 隠秘之罪」としてドラマ化され、日本でも配信されているから見たことがある人もいるかもしれない。
原作は文庫本で上下2巻、ドラマ版は全12話だが、脚本の港岳彦はそれをコンパクトな2時間ちょっとの映画にまとめ上げる。物語の舞台を沖縄に移し、夏休み前の一学期最後の日に物語をスタートさせて、「少年少女の一夏の体験」というフォーマットに仕立て上げている。
この映画の魅力になっているのは、映画全体を覆う「死」の臭いと、それに抗うように動きまわる少年少女の「生」のエネルギーだろう。映画は殺人事件で幕を開けるが、朝陽の周囲でもクラスメイトの自殺という事件が起きている。死の二重奏だ。
死神のように周囲の人々を死に追いやるサイコパスの殺人鬼・東昇と、我が子が殺されたという思いに取りつかれて朝陽に迫る自殺したクラスメイトの母。こうした死の臭いを振り払うように、生きるための金を手に入れようとする子供たち。
子供たちの芝居は特別上手いとも思わないのだが、芝居のぎこちなさや固さも含めて物語に取り込んでいく金子修介の監督手腕。金子監督は『1999年の夏休み』(1988)でも死に取り憑かれた少年少女(少年でもあり少女でもある俳優達!)の一夏の物語を描いているが、今回の映画はそれに通じる雰囲気があると思う。
何が言いたいかというと、この映画は間違いなく傑作だと言いたい!
羽村仁成が演じた朝陽は凄味のある芝居で周囲の大人たちを食ってしまうが、この映画で一番光っているのは星乃あんな演じる夏月だと思う。彼女こそがこの映画最大のキーパーソンであり、こびりついて離れない血の臭いがする映画の中で、彼女の存在だけがある種の救いになっている。
再度繰り返すが、傑作なのだ。
TOHOシネマズ日比谷(スクリーン9)にて
配給:東京テアトル、チームジョイ
2023年|2時間9分|日本|カラー
公式HP:https://gold-boy.com/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt27349502/