欲求不満の残る現代アートの寓話 『まる』
■あらすじ
画家として芽が出ないまま、人気現代アート作家のアシスタントとして生活している沢田は、ケガをして仕事をクビになってしまう。当座の金を手に入れようと、馴染みの古道具屋に部屋のガラクタをたたき売るが、その中には落書きのようにいくつかの○(まる)を描いたキャンバスの切れ端があった。
数日後、沢田の住むポロアパートに、アートディーラーを名乗る土屋という男が訪ねて来る。「沢田さんの円相図に感銘を受けました。今後も描いていただけるなら、1枚につき100万円をお支払いします!」。
何かの冗談か? 冗談ではなかった!
凄腕の土屋は沢田の絵を国際的なアート市場に売り出し、沢田の描いた円相は世界的なブームを巻き起こしていく。「さわだ」は正体不明の現代アート作家として、国際的な脚光を浴びるようになってしまったのだ。
沢田にとって世間の「さわだブーム」は他人事だったが、やがて彼自身がこのブームに巻き込まれて行く。
■感想・レビュー
個人的には『トイレット』(2010)を最後に荻上直子監督の映画から離れていたので、今回は久しぶりの荻上作品だった。ちょっとトボけた味わいは相変わらずだし、片桐はいりや小林聡美など、荻上監督の代表作『かもめ食堂』(2006)の主要キャストが再登場しているのも懐かしい。
最近の荻上監督作を観ていないので、この作品を通して「荻上作品としてどうであるか」を僕は語ることができない。寓意満ちた映画だが、その寓意が何を意味しているのかがよくわからないというのが僕の感想。ストーリーそのものがわからないわけではないが、何が言いたいのかよくわからない謎に満ちた映画だった。少なくとも僕にとってはそうだ。
売れない画家が、ある日突然自分の意図とはまったく関係なしに超売れっ子の世界的作家になってブームを巻き起こし、本人を置き去りにしてブームだけが過熱していくというアイデアは面白いと思った。しかしこのアイデアが、映画として膨らんでいかない。材料を混ぜ合わせてこねただけで、その材料が干涸らびてしまったような印象を受ける。
あるいはこれは、永遠に飛び立たないまま飛行場内をぐるぐると走り回っている旅客機みたいな映画だ。滑走路に出た飛行機は、やがてエンジンを吹かしてぐんぐん加速し、飛行場から離陸して大空に飛んでいく。どんな映画にも飛行場を滑走路にまで出す序盤があり、エンジンを吹かして加速し、離陸する物語の展開部がある。
だがこの『まる』という映画に、飛行機の加速と離陸はない。「そろそろ滑走路に出るのではないか」「そろそろ物語が加速していくのではないか」と期待させるだけさせて、映画は終わってしまう。映画の終盤にある主人公渾身のパンチは、ひょっとしたら物語が加速するためのスイッチだったのかもしれないが、スイッチが入るのがあまりにも遅い。遅すぎる。
主演の堂本剛は悪くないと思う。今後も役者としての活躍を期待する。
TOHOシネマズ日本橋(スクリーン2)にて
配給:アスミック・エース
2024年|1時間57分|日本|カラー
公式HP:https://maru.asmik-ace.co.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt33669276/