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天才科学者が生み出した世界一美しい怪物 『哀れなるものたち』

1月26日(金)公開予定 全国ロードショー

■あらすじ

 19世紀末のロンドン。貧しい医学生マックスは、外科教室の教授ゴドウィン・バクスターに雇われて彼の個人的な研究助手となる。その研究とは、知的障害を持つ教授の娘ベラ・バクスターの生活や行動を、逐一記録することだった。

 じつは、ベラは教授の娘ではない。教授は若い女性の身投げ死体を見つけ、彼女の脳を胎児の脳に入れ替えて蘇らせたのだ。つまりベラは身体は大人だが、頭脳は赤ん坊。しかし彼女の知的能力はみるみるうちに成長し、赤ん坊から幼児、子供のレベルへと変化していく。マックスは彼女に好意を持ち、彼女もそれに応えて、二人は婚約することになった。

 一連の法的手続きを進めるため、弁護士のダンカン・ウェダーバーンが雇われた。ダンカンはベラの魅力的な容姿と性的なアピールに魅了され、彼女を屋敷から連れ出す。ベラはダンカンと連れ立ってリスボンへと駆け落ち。だがベラの自由な行動が、ダンカンを嫉妬に狂わせることになる。

■感想・レビュー

 アラスター・グレイの同名小説を、『女王陛下のお気に入り』(2018)のヨルゴス・ランティモス監督が映画化したSF風のファンタジックなコメディ映画。

 『女王陛下〜』の脚本家トニー・マクナマラが今回も脚本を担当し、主演のエマ・ストーンも『女王陛下〜』に続いての出演。つまり本作は『女王陛下のお気に入り』のメンバーが再結集して作られた新作なのだ。

 映画にはかなり重層的にテーマやモチーフが入り乱れている。セックスと性的同意、売買春と生殖、女性差別とミソジニー、ジェンダーと同性愛などなど……。どれも今日的な問題だが、といってこの映画が「社会派」というわけでもない。本作はあくまでもエンタテインメントだ。

 といってもこの映画は、当然意識して下敷きにしたであろうメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」と同じ程度に、良くできた寓話になっている。

 どちらも死体に命を吹き込んだ天才外科医の物語だ。だが「フランケンシュタイン」の怪物がその醜さで博士から忌み嫌われ捨てられたのに対し、本作のベルはその美しさで生みの親を魅了し、愛され、自らの意思で自発的に博士のもとを離れて世界へと旅立っていく。このあたりはバーナード・ショーの「ピグマリオン」めいているかもしれない。

 ベルが目撃する世界の様子は、まるでキャロルの「不思議の国のアリス」だ。それは奇妙にねじくれた現実世界の写し絵で、不条理や不合理がまかり通っている。彼女が目撃した最大の衝撃は、アレキサンドリアで見た貧民窟の風景。彼女が体験する最大の衝撃は、パリの売春宿での娼婦体験だ。世界最低の貧困と、女が行う最低の仕事(作中の人物による評)が、しかしベルを大きく成長させていく。

 奇妙奇天烈で荒唐無稽。それは劇中のウィレム・デフォーの顔のように、大きく傷つき歪められた現実の世界だ。とてつもなく面白い。2023年第80回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作だ。

(原題:Poor Things)

ユナイテッド・シネマ豊洲(4スクリーン)にて先行上映 
配給:ディズニー 
2023年|2時間22分|イギリス、アメリカ、アイルランド|カラー 
公式HP:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt14230458/

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