導入部が残念だが最後のオチは面白い 『あの人が消えた』
■あらすじ
宅配便の配達員をしている丸子夢久郎は、同僚に薦められてWEB小説のサイトを知り、たまたたま読み出した「スパイ転生」という作品に夢中になる。連載が更新されるたび、作者のコミヤチヒロに応援コメントを書くのが丸子の楽しみになった。
クレマチス多摩は、丸子の新しい受け持ち担当エリアにある。丸子はそのマンションの住人・小宮千尋が「スパイ転生」の作者だと知って大興奮。だが彼女の部屋に入ろうとしている不審な男を見つけて、彼女がストーカーにつけ狙われているのではないかと考える。
部屋に入ろうとしている男は、同じマンションの住人・島崎だった。荷物の配達を装って彼の部屋を覗いた丸子は、部屋の中に盗聴受信機と隠し撮りされた写真が貼ってあるのを見てしまう。間違いない。この男は怪しい……。
それから間もなく、彼女はマンションから姿を消してしまう。じつはこのマンションは、以前から「人が消える」と噂になっていたのだ。
■感想・レビュー
予告編を観てもまったく何も期待していなかったのに、たまたま気まぐれに観たら面白かった作品。ただし猛烈に面白い今年のナンバーワン作品とか、映画賞に絡んでくる傑作というわけでもない。あくまでも「期待してなかったけど面白かった」とういうレベルの作品だ。
この映画を面白がるには、事前の期待値をかなり下げておかなければならない。だから僕がここで「意外に面白かった」と書いたことで「それなら観てみようか」と映画館に足を運んでも、その時点で期待値が上がってしまうから面白がれない可能性は高い。「思っていたより面白かった」という映画を紹介するには、そういうジレンマがある。
映画は全体で三部構成になっている。「人が消えるマンション」からWEB小説家が消えて、それを宅配員の青年が探すという、映画予告篇にあり、今回あらすじにも書いた部分が第一部。ここはサスペンスミステリー仕立てだ。
第二部はその裏側にある物語を、別の視点から描く真相編。ここはコメディ色が強くなり、僕は何度か声を出して笑ってしまった。第三部はそのどんでん返し。しかし映画にはさらにエピローグがあり、ちょっと信じられないようなハッピーエンドが用意されている。
このハッピーエンドは第一部の段階から用意周到に準備されていて、最後に取って付けたような感じはしない。むしろこのエピローグがやりたくて、物語は紆余曲折、二転三転してここに着地しているようにさえ思う。
この映画が残念なのは、第一部の作りがダメなことだ。WEB小説家のコミヤチヒロにストーカーがいるとすれば、それは配達員の丸子ではないか。小説の熱烈なファンである丸子は勝手に彼女の身を案じて身辺を探り、仕事そっちのけで彼女の行動やマンション住民を調べまくる。
僕はこの行動にドン引きで、まったく彼に感情移入できなかった。丸子を探偵役にするなら、彼自身を不審人物に見せない工夫が必要だったと思う。
ユナイテッド・シネマ豊洲(11スクリーン)にて
配給:TOHO NEXT
2024年|1時間44分|日本|カラー
公式HP: https://ano-hito.com/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt33429914/