本家『キングコング』の引用が楽しい 『キングコング対ゴジラ』
■あらすじ
北極海を航行中の原子力潜水艦シーホーク号は、謎めいた怪光を発する氷山を発見。氷山を粉砕して現れたのはゴジラだった。ゴジラは帰巣本能に従って南下し日本を目指す。
同じ頃、提供番組「世界の驚異シリーズ」の視聴率低迷に悩むパシフィック製薬宣伝部は、ソロモン諸島南部のファロ島に伝わる「巨大な魔神」を取材するため、現地にテレビ局の撮影隊を派遣する。カメラマンの桜井らは、そこで巨大なタコの怪物や、それと戦うキングコングを見て仰天する。
桜井らは原住民と協力して巨大筏を作ると、キングコングを日本に運ぶことにする。同じ頃にゴジラは日本に上陸。パシフィックの宣伝部長は「我が社のキングコングをゴジラと戦わせたら、高視聴率と宣伝効果に間違いなし!」とそろばんを弾く。
輸送中のコングは、日本が近づくとゴジラの存在を察知したのか大暴れ。筏から逃げ出して日本を目指す。上陸したコングは、ゴジラ目指して進むのだが……。
■感想・レビュー
東宝創立30周年記念作品として制作された、ゴジラシリーズの3作目。初公開は1962年(昭和37年)だが、これは前作『ゴジラの逆襲』(1955)から7年後だ。前作まではモノクロ・スタンダードだった画面が、この映画からカラー・シネマスコープ(東宝スコープ)になっている。
キングコングはRKO映画が権利を持っているのだが、本作は無断借用ではなく、正式にRKOとライセンス契約をして製作されている。作り手である東宝の特撮スタッフたちにとっても、キングコングは憧れのクリーチャーだったのだろう。映画には本家『キングコング』(1933)へのオマージュや引用がたっぷりと詰め込まれている。
これはマネでもパクリでもない。「キングコングとはこういうものだ!」「俺達は自分たちの技術でキングコングを作りたいのだ」という気持ちが、映画から溢れ出ている。「あのキングコングが現代に日本に現れたら」という世界を、存分に楽しんでいることがわかる。これは観ている方も楽しい。浜美枝の和製フェイ・レイぶりには、映画を観ていてニコニコしてしまう。
この映画はタイトルでも「キングコング」が先になっているが、映画の内容もキングコングが主役で、ゴジラはその相手役で脇役という役回り。キングコングがホストで、ゴジラがゲストなのだ。こういうパターンは、ゴジラ映画の中でも珍しいのではなかろうか。どうなんでしょ?
シリーズ1作目の『ゴジラ』(1954)はまだ戦後の面影を色濃く残している映画だったが、本作が製作された1960年代は高度経済成長の真っ只中。映画にもそんな世相が反映されている。南海の孤島からキングコングを連れてきて企業宣伝に使おうとするパシフィック製薬の荒唐無稽な奮闘ぶりは、同時代の東宝サラリーマン喜劇映画の流れを引き継いでいるように思う。社長シリーズや無責任男シリーズと同じ空気感だ。映画は常に、その時代を映す鏡なのだ。
TOHOシネマズ日比谷(スクリーン7)にて
配給:東宝
1962年|1時間37分|日本|カラー|スコープサイズ
公式HP:https://www.tohotheater.jp/event/godzilla-theater.html
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt0056142/